遺言書の書き方・見本と法務局保管制度|トラブル事例から学ぶ必要性と遺言執行者の重要性
親が亡くなった翌日、銀行口座が凍結されて葬儀費用も引き出せない——遺言書がなかったがために、このような事態に直面するご家族は少なくありません。「うちは揉めないから大丈夫」と思っていた家族が、遺産分割協議で数年間対立するケースも現実に起きています。この記事では、実際のトラブル事例3選をもとに遺言書の必要性を解説し、費用3,900円の法務局保管制度と自筆証書遺言の書き方、3パターンの具体的な見本、そして遺言執行者の重要性を、東京・渋谷のFP・石田健雄がわかりやすく解説します。
📌 この記事の要点
- 遺言書がないと相続人全員の合意が必要な遺産分割協議が発生し、預金凍結・長期化・争族リスクがある
- 自筆証書遺言は費用ほぼゼロで作成でき、法務局保管制度(3,900円)を使えば検認不要・紛失リスクゼロ
- 書き方の必須事項は「全文自筆・日付(年月日)・氏名・押印」の4点(財産目録のみパソコン可)
- 遺言執行者を指定すれば、相続人全員の協力なしに不動産の名義変更や預金解約が進められる
- 内縁・再婚・子なし夫婦など、法定相続では意思が反映されないケースほど遺言書が特に有効
遺言書がないと何が起きる?実際のトラブル事例3選
遺言書がない場合、相続人全員の合意による「遺産分割協議」が必要になります。一人でも協議を拒否・無視すると手続きが前に進まず、預金口座は凍結されたまま、不動産の名義変更もできません。相続人間の対立や音信不通の相続人の存在が、問題をより複雑にします。
事例① 兄弟の意見が対立し、預金が2年間凍結(Aさんの場合)
渋谷区在住のAさん(77歳・男性)が急逝されました。配偶者はすでに他界しており、相続人は長男・次男・長女の3名。長男は「自宅は自分が管理してきたから引き継ぐべき」と主張し、次男・長女は「均等に分けるべき」と対立。遺産分割協議は紛糾し、2年以上が経過しても解決できませんでした。その間、被相続人名義の預金口座は凍結されたままとなり、固定資産税の支払いや介護費用の精算にも支障をきたしました。
もしAさんが「自宅は長男に、金融資産は3名で均等分割」と書いた遺言書を残していれば、この事態は避けられた可能性があります。
事例② 内縁の妻に財産を残せなかった(Bさんの場合)
Bさん(72歳・男性)は20年以上、内縁の妻Cさんと同居していました。前妻との間に子どもが2人いますが、長年疎遠。Bさんが「もしもの時はCさんに全財産を」と口頭で伝えていましたが、遺言書はありませんでした。Bさんが他界すると、法定相続人は前妻との子2人のみ。Cさんには相続権がなく、長年同居した自宅も、2人の子どもの合意なしには名義変更できませんでした。結果として、Cさんは住む場所を失うリスクに直面しました。
事例③ 子どものいない夫婦で義両親が相続人に(Dさんの場合)
Dさん夫婦(60代)は子どもなし。妻のEさんが先に亡くなりました。相続人の調査をすると、Eさんの両親はすでに他界していたため、Eさんの兄弟2人が法定相続人となることが判明。Dさん(夫)が全財産を受け取るためには、義兄弟との遺産分割協議が必要となりました。日頃から交流の薄い義兄弟との協議は難航し、精神的な負担も大きかったといいます。
子どもがいない夫婦の場合、「夫婦の一方が亡くなると配偶者と義兄弟(または義両親)が共同相続人になる」というケースは多くの方が見落としがちです。遺言書があれば「すべての財産を配偶者に」と明示でき、このような事態を防ぐことができます。
遺言書の種類と自筆証書遺言が選ばれる理由
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。なかでも自筆証書遺言は費用がほぼかからず、自宅で一人でいつでも書けるため、初めての遺言書として広く活用されています。法務局保管制度を併用することで、公正証書に近い安全性を確保できます。
| 種類 | 作成方法 | 費用目安 | 証人 | 検認 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 全文を自筆で記載 | ほぼ0円(法務局保管は3,900円) | 不要 | 原則必要(法務局保管は不要) | 手軽・プライバシー確保 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成 | 数万〜十数万円 | 2名必要 | 不要 | 確実・紛失リスクなし |
| 秘密証書遺言 | 自筆または代筆(署名は自筆) | 数万円 | 2名必要 | 必要 | ほとんど利用されない |
公正証書遺言は安全性が高い一方、公証人への手数料・証人手配など費用と手間がかかります。一方、自筆証書遺言は費用がほぼゼロで、いつでも自宅で作成・変更できます。2020年7月に始まった法務局保管制度を利用すれば、自宅保管の主なデメリット(紛失・改ざん・検認手続き)をほぼ解消できます。
税務・法律上の観点から、作成前に弁護士や司法書士へ相談することをお勧めします。
法務局保管制度とは?費用・手続き・メリット
「遺言書保管法」(法務局における遺言書の保管等に関する法律)は2020年7月10日に施行されました。自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けることで、①紛失・改ざんリスクの排除、②家庭裁判所での検認手続きが不要、③相続人が全国の法務局でデータを確認できる、といったメリットを享受できます。
・根拠法:遺言書保管法(2020年7月10日施行)
・保管費用:3,900円(1件・一生涯)
・申請場所:遺言者の住所地・本籍地・所有不動産所在地のいずれかの法務局
・本人申請:本人が必ず直接出向く必要あり(代理不可)
・検認:不要(相続開始後、相続人が法務局に通知されるシステムあり)
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」
手続きの流れ
- 遺言書を自筆で作成する(自分で用紙・形式を準備)
- 法務局のWebサイトまたは電話で予約を取る
- 予約した法務局の遺言書保管所へ本人が直接出向く
- 申請書・本人確認書類・遺言書・手数料3,900円を提出
- 保管証を受け取る(保管証は大切に保管)
なお、保管後も遺言書の内容は変更・撤回が可能です(一度法務局から返還してもらい、新しい遺言書を再度保管)。弁護士や司法書士に事前に内容の確認を依頼することで、作成ミスや無効リスクを減らすことができます。
自筆証書遺言の書き方と必須チェック4項目
自筆証書遺言が法的に有効であるためには、①全文を自筆で書く、②日付を年月日まで記載する、③氏名を自筆で書く、④押印する——の4点がすべて必要です。一つでも欠けると遺言書全体が無効になります。財産目録のみパソコンで作成できますが、目録の各ページに署名・押印が必要です。
- 本文は全文を自筆で書く(ワープロ・代筆は不可)
- 日付は年月日まで明記する(「○月吉日」は無効)
- 氏名を自筆で書く(フルネーム推奨)
- 押印する(認印でも可だが実印が望ましい)
- 鉛筆・消えるボールペンは使わない(書き換えリスク)
- 日付や署名が印刷・スタンプのみは無効
- 証人や公証人は不要(不要なのがメリット)
2019年の民法改正により、財産目録(不動産・預金等の一覧表)はパソコンで作成することができるようになりました。ただし、目録の各ページに署名・押印が必要です。本文部分は引き続き全文自筆が必要です。
出典:法務省「自筆証書遺言の方式緩和」
見本① 配偶者に全財産を遺す遺言書
「すべて妻(夫)に」と伝えたいケースに最適なシンプルパターンです。子どもがいる場合、子どもの遺留分(法定相続分の1/2)が発生しますが、遺言書があれば配偶者への一括相続を優先できます。文章は短く、初めての遺言書作成に向いています。
遺言者 山田太郎(やまだたろう)は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者の有する一切の財産を、妻 山田花子(やまだはなこ、昭和35年○月○日生)に相続させる。
見本② 子どもに財産を均等に分ける遺言書
子どもが複数いて「公平に分けたい」場合のパターンです。割合指定は文章がシンプルになりますが、後で「どの財産を誰が取得するか」の協議が残ります。財産目録を添付して不動産・預金を個別に指定する方が、相続手続きを完全に遺言書だけで完結させられるため推奨されます。
遺言者 山田太郎(やまだたろう)は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者の有する一切の財産を、長男 山田一郎(やまだいちろう、昭和60年○月○日生)および長女 山田美子(やまだよしこ、昭和62年○月○日生)に、各2分の1の割合で相続させる。
第2条 本遺言の遺言執行者として、長男 山田一郎を指定する。
見本③ 特定財産の指定+遺言執行者+付言事項
「不動産は長男、預金は長女、残りは妻に」と財産を個別に指定する最も完成度の高いパターンです。遺言執行者を指定することで相続人全員の協力なしに手続きが進み、付言事項で家族へのメッセージも残せます。財産の多い方・相続人が複数いる方に特に推奨される形式です。
遺言者 山田太郎(やまだたろう)は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者が所有する下記不動産を、長男 山田一郎(やまだいちろう、昭和60年○月○日生)に相続させる。
(土地)東京都渋谷区渋谷2丁目○番○号 地目:宅地 地積:○○.○○㎡
(建物)上記土地上の家屋番号○○番○号 床面積:○○.○○㎡
第2条 遺言者が○○銀行渋谷支店に有する普通預金(口座番号:○○○○○○○)のすべての預金債権を、長女 山田美子(やまだよしこ、昭和62年○月○日生)に相続させる。
第3条 前各条に記載した財産以外の遺言者の一切の財産を、妻 山田花子(やまだはなこ、昭和35年○月○日生)に相続させる。
第4条 本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
氏名 渋谷 次郎(しぶや じろう)
住所 東京都渋谷区○○○
生年月日 昭和○○年○月○日
遺言執行者が欠けた場合は、家庭裁判所に選任を申し立てることができる。
【付言事項】
長い間、家族を支えてくれてありがとう。花子には、これからも健康でいてほしい。一郎と美子には、兄弟仲よく過ごしてくれることが、私の一番の願いです。
遺言執行者の指定が重要な理由と選び方
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を持つ人です。指定があれば、相続人全員の同意を得なくても、不動産の名義変更・預金の解約・株式の名義変更などを単独で進めることができます(民法1012条)。内縁の妻・特定の相続人のみへの遺贈など、他の相続人が非協力的になりやすいケースで特に効果的です。
遺言執行者がいる場合といない場合の比較
| 手続き | 遺言執行者あり | 遺言執行者なし |
|---|---|---|
| 不動産名義変更 | 遺言執行者が単独申請可 | 相続人全員の同意書が必要 |
| 預金解約・払戻し | 遺言執行者が手続き可 | 相続人全員の書類が必要 |
| 株式・投資信託の名義変更 | 遺言執行者が対応可 | 相続人全員の承認が必要 |
| 法定相続人が非協力的な場合 | 手続きを進めることができる | 手続きがストップする可能性 |
遺言執行者の選び方
- 信頼できる家族・知人:費用はかからないが、専門知識が必要な場面も多い
- 弁護士・司法書士:専門知識があり確実だが報酬が発生する(遺産の1〜3%程度が目安)
- 信託銀行:大きな財産がある場合に適切だが費用は高め
遺言執行者は複数指定することも可能です。また、特定の人物を指定せず「弁護士または司法書士の中から相続人が選任する」と記載する方法もあります。具体的な人選については弁護士・司法書士へご相談ください。
遺言書作成の注意点・よくある無効リスク
自筆証書遺言の無効事例として多いのは、①日付が「○月吉日」などで特定できない、②署名・押印が一部のみ、③共同遺言(夫婦2人で1枚の遺言書を書いた)、④遺言能力がない状態で作成された、などのケースです。また、内容が合法でも書き方のミスで意図が伝わらないケースも少なくありません。
よくある無効・問題パターン
- 「○月吉日」「○月末日」:日付が特定できず無効になる場合があります。必ず「令和○年○月○日」と記載を
- 夫婦2人で1通に署名:共同遺言は民法で禁止されています(民法975条)。夫婦それぞれが別々の遺言書を作成してください
- 財産の特定が不十分:「自宅の土地と建物」だけでは特定が難しい場合があります。登記簿謄本の記載を参照して正確に
- 遺留分への配慮:配偶者・子・直系尊属には「遺留分」があります。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の1/3、それ以外は法定相続分の1/2です。例えば、子が2人いる場合の遺留分はそれぞれ1/8(法定1/4の1/2)となり、この遺留分を侵害する内容の遺言書も有効ですが、後から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります(民法1042条)
- 訂正方法の誤り:遺言書を訂正する場合は定められた方式(民法968条)があります。二重線で消して上書きするだけでは無効になりかねません
よくある質問
遺言書は何歳から書けますか?
15歳以上であれば遺言書を作成できます(民法961条)。年齢に関係なく、判断能力がある状態で作成することが重要です。認知症などで判断能力が低下した後に作成した遺言書は、後から無効と争われるリスクがあります。
自筆証書遺言は全文を自分で書かないといけませんか?
本文は全文を自筆で書く必要があります。ただし2019年の民法改正により、財産目録(不動産・預金などの一覧表)のみパソコンで作成することが可能になりました。財産目録の各ページには署名・押印が必要です。
法務局保管制度の費用はいくらですか?
1件につき3,900円です(2026年5月時点)。この費用は遺言書1通の一生涯の保管費用で、変更・撤回する場合は一度返還してもらい再申請します。出典:法務省「遺言書保管制度」
遺言書の内容は後から変更できますか?
はい、何度でも変更・撤回できます。自筆証書遺言の場合、新しい遺言書を作成することで以前の遺言書の全部または一部を撤回できます。法務局保管の場合は、保管所から返還してもらい、新しい遺言書を再度保管します。
遺言執行者には誰でも指定できますか?
未成年者・破産者は遺言執行者になれませんが(民法1009条)、それ以外であれば誰でも指定できます。相続人自身も指定可能です。ただし、複雑な手続きには弁護士や司法書士などの専門家を指定することをお勧めします。
遺言書がなくても夫婦の財産は妻が全部もらえますか?
子どもがいる場合は、配偶者の法定相続分は1/2です。残り1/2は子ども全員で均等に分けます。子どもがいなくても、被相続人の兄弟が存命であれば兄弟にも相続分が発生します。「すべてを妻に」という意思があれば、遺言書での明示が重要です。
財産目録はパソコンで作成していいですか?
はい、2019年の民法改正以降、財産目録はパソコンで作成することができます。ただし、目録の各ページに遺言者の署名と押印が必要です。本文部分は引き続き全文自筆が必要です。
遺言書を書いた後はどこに保管すればいいですか?
最も安全なのは「法務局保管制度」の利用です。自宅保管の場合は、相続人が発見できる場所に保管し、存在を信頼できる人に伝えておくことが重要です。金庫や引き出しに入れるだけでは、発見されなかったり、死後に見つからないリスクがあります。
公正証書遺言と自筆証書遺言はどちらがいいですか?
財産が複雑・高額な場合や、相続人間のトラブルが予想される場合は公正証書遺言が安心です。費用はかかりますが、公証人が作成するため無効リスクが低く、原本が公証役場に保存されます。一方、まず遺言書を作成したい方や費用を抑えたい方には、法務局保管制度を併用した自筆証書遺言が適しています。
子どもがいない夫婦の場合は遺言書を書いた方がいいですか?
特に重要です。子どもがいない夫婦の場合、一方が亡くなると義兄弟・義両親が共同相続人になります。「すべてを配偶者に」という場合は遺言書が不可欠です。また、子どものいないケースでは遺留分の権利者が限られるため、遺言書を活用しやすい状況でもあります。
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