おひとりさまの保険の優先順位|50代で見直す順番
「独身なので、保険はいらないと思っていました」——ひとりで暮らしている方から、こうお聞きすることがあります。半分は当たっていて、半分はそうではありません。残す相手がいなければ死亡保障の必要性は下がります。一方で、働けなくなったときに家計を支えてくれる人もいません。この記事では、ひとりで暮らす50代の方が保険を見直すときの優先順位を、公的な給付から逆算する形で整理します。
📌 この記事の要点
- 保険は「誰のための保障か」で分けられます。ひとりで暮らす場合、死亡保障の優先度は下がり、就業不能の優先度が上がります。
- 会社員の方には傷病手当金があり、標準報酬日額の3分の2相当が通算1年6か月まで支給されます。ここが備えの土台になります。
- 自営業の方や退職された方は、国民健康保険に傷病手当金が原則ありません。同じ病気でも空く穴の大きさがまったく違います。
- 公的介護保険には要介護度ごとの支給限度額があり、施設の食費と居住費は自己負担です。ここが民間の介護保障を考える起点になります。
- 見直しは解約する前に、いま出る給付を書き出すところから始めます。順番を逆にすると、保障が切れた状態が生まれます。
おひとりさまの保険は「誰のための保障か」から考える
保険の保障は、お亡くなりになったときに遺されたご家族を支えるものと、生きているあいだのご自身の支出や収入減を支えるものに分かれます。ひとりで暮らす場合は後者が中心になります。
保険は種類が多く、比べ始めるときりがありません。整理の起点は1つです。その保障は誰のために出るのか。
| 保障の種類 | 誰のために出るか | ひとりで暮らす場合 |
|---|---|---|
| 死亡保障 | 遺されたご家族 | 優先度は下がります |
| 就業不能・所得補償 | ご自身(収入の代わり) | 優先度が上がります |
| 医療保障 | ご自身(治療と入院の費用) | 公的保険で足りない部分を考えます |
| 介護保障 | ご自身(介護の費用) | 公的保険で足りない部分を考えます |
| 貯蓄性のある保険 | ご自身(将来の資金) | 他の置き方と比べて選びます |
ご家族がいる方との違い
ご家族がいる場合、働けなくなっても配偶者の収入や家事の担い手がいます。ひとりで暮らしている場合、収入が止まると同時に、生活の運営そのものも止まります。買い物、洗濯、掃除を代わってくれる人がいないため、サービスを使う費用が加わります。
この「代わってくれる人がいない」という点が、優先順位を組み替える理由です。
死亡保障の必要性が下がる理由|残す相手がいない場合
死亡保障は遺されたご家族の生活費や教育費をまかなうためのものです。扶養しているご家族がいない場合、必要性は下がりますが、葬儀費用と身辺整理の費用は残ります。
ひとりで暮らしている方の死亡保障を考えるとき、出発点は「その保険金を誰が受け取り、何に使うのか」です。
それでも残る費用
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 葬儀(家族葬・直葬の場合) | 数十万円〜100万円程度 |
| お部屋の片づけ・遺品整理 | 間取りにより十数万円〜数十万円 |
| 賃貸の場合の原状回復 | 契約により変わります |
| 各種の解約手続きの代行 | 依頼先により変わります |
合計で200万円ほどを見込む考え方があります。これを保険で用意するか、預金で用意するかは選べます。
📌 預金で足りる場合、死亡保障は要らないこともあります
すぐ動かせる預金が300万円以上あるなら、葬儀と身辺整理の費用は預金でまかなえます。ただし、その預金を誰が引き出すのかという問題が残ります。金融機関は名義人のお亡くなりを知ると口座の取引を止めるためです。死亡保険金は受取人が請求すれば受け取れるため、すぐ動かせるお金として使いやすいという違いがあります。
お子さんがいない場合の受取人
死亡保険金の受取人は、ご自身で指定できます。きょうだいや甥・姪、あるいは公益法人などを指定する形もあります。受取人を決めないままだと、保険金が相続財産として扱われ、手続きが長くなることがあります。
⚠️ 受取人の指定や相続の扱いについては、ご家族の構成によって取り扱いが変わります。判断に迷われる場合は、弁護士・司法書士・税理士へのご相談をお勧めします。
優先度が上がるもの①就業不能|働けなくなったときの収入
働けなくなったときに使えるのは傷病手当金と障害年金です。会社員には傷病手当金がありますが、国民健康保険には原則ありません。この差が備えの必要額を決めます。
ひとりで暮らす方にとって、いちばん効きやすいのがここです。収入が止まったとき、支えてくれる人がいません。
まず公的な給付を確認します
| 給付 | 内容 | 期間 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 傷病手当金 | 標準報酬日額の3分の2相当 | 支給開始日から通算1年6か月 | 健康保険の被保険者(会社員など) |
| 障害厚生年金 | 障害等級1級〜3級 | 状態が続くあいだ | 厚生年金の加入者 |
| 障害基礎年金 | 障害等級1級・2級 | 状態が続くあいだ | 国民年金の加入者 |
⚠️ 国民健康保険には、傷病手当金が原則ありません。自営業の方、フリーランスの方、退職して国民健康保険に切り替えた方は、働けなくなった月から収入がゼロになりえます。同じ病気でも、会社員と自営業では空く穴の大きさがまったく違います。
会社員の場合に空く穴
傷病手当金は、標準報酬日額の3分の2相当です。月収30万円の方なら、月20万円ほど。足りない分は、
- 収入の3分の1(月10万円ほど)
- 社会保険料は引き続き負担が発生します(傷病手当金からは引かれません)
- 通算1年6か月を超えた後の期間
この3つです。障害年金の等級に該当しなければ、1年6か月を過ぎた時点で公的な給付が途切れます。
退職後に切り替える方が気をつける点
退職して国民健康保険に移ると、傷病手当金の仕組みがなくなります。一方、健康保険の任意継続を選んだ場合も、退職後に発病したものについては傷病手当金の対象になりません(退職前から受給していた場合の継続給付は別の扱いです)。この点は、退職後の保障を考えるときに確認が要ります。
優先度が上がるもの②医療|入院の実費と代行の費用
健康保険の対象部分は高額療養費で上限がつきますが、差額ベッド代、食事代、生活の代行費用は対象外です。ひとりで暮らす場合はこの対象外の部分が増えやすくなります。
医療費そのものは、公的な保険で抑えられます。高額療養費制度により、健康保険の対象部分には月ごとの上限がつきます。
対象外になる部分
| 費用 | 目安 | ひとりで暮らす場合 |
|---|---|---|
| 差額ベッド代 | 1日数千円〜2万円程度 | 付き添いがいないため個室を選ぶ場面が増えます |
| 入院中の食事代 | 1食あたり数百円 | 同じです |
| 日用品・洗濯 | 1日数百円〜 | 代行サービスを使うことが増えます |
| 退院後の家事支援 | 1時間あたり数千円 | ここが大きく違います |
| 先進医療・自由診療 | 内容により大きく変わります | 同じです |
医療保険を考える起点
1か月の入院で、対象外の費用が10万円から15万円ほどかかる見方ができます。ここに高額療養費の上限額(所得区分により8万円台〜)を加えると、1か月で20万円前後です。
📌 すぐ使える現金と比べます
すぐ使える現金が100万円あるなら、1か月の入院を数回まかなえます。この場合、医療保険の保険料を払うより現金を持っておくほうが自由度が高い、という判断もありえます。逆に現金が少ない時期は、保険で埋める意味が出てきます。現金の残高と保険料を並べて比べることをお勧めしています。
50代で医療保険を見直すときの確認点
- 入院1日目から出るか:短期入院が増えているため、5日目からの保障は使いにくくなっています
- 日帰り手術が対象か
- 通院の保障があるか:治療が通院中心になる場合に効きます
- 保険料が上がる時期:更新型は10年ごとなどに保険料が変わります
- いつまで保障が続くか:80歳まで、終身、など
優先度が上がるもの③介護|公的介護保険で足りない部分
公的介護保険には要介護度ごとの支給限度額があり、超えた分は全額自己負担です。施設に入る場合の食費と居住費も対象外となるため、そこが民間の介護保障を考える起点になります。
介護は、ひとりで暮らす方にとってもっとも金額が読みにくい部分です。
公的介護保険でカバーされる範囲
- 40歳から保険料の負担が始まります
- 65歳以上(第1号被保険者)は原因を問わず、40歳〜64歳(第2号被保険者)は特定疾病が原因の場合に利用できます
- 自己負担は所得により1割〜3割です
- 要介護度ごとに1か月の支給限度額が決まっており、超えた分は全額自己負担になります
対象外になるもの
| 費用 | 扱い |
|---|---|
| 支給限度額を超えたサービス | 全額自己負担 |
| 施設の食費・居住費 | 自己負担(所得に応じた軽減があります) |
| 日用品・おむつ・理美容 | 自己負担 |
| 有料老人ホームの入居金 | 対象外 |
| 住宅のバリアフリー改修(上限を超える分) | 自己負担 |
ひとりで暮らす場合に金額が上がりやすい理由
ご家族がいる世帯では、支給限度額の枠内で足りない部分をご家族が担うことがあります。ひとりで暮らしている場合、その部分もサービスで埋めることになります。結果として支給限度額を超えやすく、自己負担が増える傾向があります。
また、在宅での生活が難しくなったときに施設を選ぶ時期が早まりやすい、という面もあります。
📌 介護の備えは、保険だけの話ではありません
民間の介護保険で用意する方法もありますが、要介護度の認定を条件とする商品が多く、認定されるまで給付が出ません。預金や資産で備える形、住まいを見直す形と並べて比べる価値があります。どれが向くかは、いまの資産と住まいの状況で変わります。
必要な保障額を出す|公的な給付から逆算する
必要な保障額は、月々の支出から公的な給付を引いた不足額に、その状態が続く期間をかけて出します。加入している健康保険の種類によって不足額が大きく変わります。
保障額は、商品の説明からではなく、ご自身の数字から出します。
📌 不足額の出し方
月々の支出(+働けないときに増える代行費用)- 公的な給付(傷病手当金・障害年金)= 月の不足額
会社員・月収30万円・支出月22万円の場合
| 最初の1年6か月 | その後 | |
|---|---|---|
| 支出 | 22万円+代行費用3万円=25万円 | 25万円 |
| 傷病手当金 | 約20万円 | ありません |
| 障害年金(3級に該当する場合) | — | 月5万円前後 |
| 社会保険料の負担 | 発生します | 発生します |
| 月の不足額 | 約8万円(社会保険料を含む) | 約20万円 |
最初の1年6か月は月8万円ほど、その後は月20万円ほど足りません。1年6か月を過ぎたあとのほうが穴が大きいという形になります。
自営業・国民健康保険の場合
傷病手当金がないため、働けなくなった月から月25万円が足りません。障害基礎年金は1級・2級のみで、3級に相当する状態では給付がありません。この差は、就業不能への備えを考える強い理由になります。
備え方は3つあります
- 預金で備える:生活費の1年分〜2年分を分けておきます。使い道が自由で、使わなければ残ります
- 保険で備える:就業不能保険、所得補償保険など。月々の保険料が固定費になります
- 働き方で備える:在宅でも続けられる仕事の形を持っておく、勤務先の制度(休職期間、上乗せ給付)を確認する
どれか1つに絞る必要はありません。預金でまかなえる期間を先に出し、その先を保険で埋めるという組み合わせが、保険料を抑えながら穴を埋めやすい形です。
見直しの順番|解約する前に確認すること
見直しは、いま加入している保険から何が出るかを書き出すところから始めます。不足を埋めてから解約する順序にすることで、保障の切れた期間が生まれずに済みます。
順番を守ることが、いちばんの要です。
- いま加入している保険の証券を1枚の表にする
会社名、保険の種類、保険金額、入院日額、保険料、保障が終わる年齢。これを並べます。 - 何が出るかを書き出す
死亡時、入院時、手術時、介護状態になったとき。それぞれいくら出るかを書きます。 - 公的な給付を確認する
加入している健康保険の種類(健康保険か国民健康保険か)、ねんきん定期便で厚生年金の加入期間。 - 不足額を出す
就業不能、医療、介護、死亡の4つについて、②と③で埋まらない部分を出します。 - 足りない部分を埋める
預金で埋められるなら、保険は増やさずに済みます。 - 最後に、要らない部分を減らす
ここで初めて解約や減額を検討します。
⚠️ 順番を逆にしないことをお勧めします。保険料を下げたいという動機から先に解約すると、健康状態によっては入り直せないことがあります。50代以降は、告知の内容によって加入できる商品が限られてくるためです。減らす前に、代わりの備えを確かめてください。
減額・払済という選択肢もあります
解約以外に、保険金額を下げる減額、保険料の払い込みを止めて保障を続ける払済という方法があります。貯蓄性のある保険では、解約より払済のほうが手元に残る金額が大きくなる場合があります。
35年の実務のなかで感じているのは、ひとりで暮らす方の保険は死亡保障が厚く、就業不能への備えが薄いという形になっていることが多いということです。ご家族がいる前提で設計された保険をそのまま続けていると、この形になりやすくなります。証券を並べてみるだけでも、どこが厚くてどこが薄いかが見えてきます。
おひとりさまの保険についてよくあるご質問
ひとりで暮らしている方から保険の見直しについていただくご質問をまとめました。死亡保障の必要性、就業不能への備え、医療保険と介護保険の考え方を扱っています。
独身なら死亡保障はまったく要らないのですか。
就業不能保険は入ったほうがよいですか。
傷病手当金はいくら、いつまでもらえますか。
医療保険と預金、どちらで備えるのがよいですか。
民間の介護保険は入るべきですか。
50代からでも保険に入れますか。
保険料を下げたいのですが、何から見直せますか。
退職したら傷病手当金はどうなりますか。
障害年金はどのくらいもらえますか。
保険は誰に相談するのがよいですか。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の投資判断・契約の勧誘・税務および法律に関する助言を目的とするものではありません。掲載している制度・税制・料率は執筆時点の情報にもとづいており、今後の制度改正により取り扱いが変わる場合があります。
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FP事務所FPis/代表 石田健雄(CFP・1級FP技能士)。所属先を通じて生命保険・損害保険・金融商品仲介の募集人として登録しています。

