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繰り下げを選ぶなら、待つ間の生活費をどう作るか

年金の繰り下げを選ぶなら、待っている間の生活費をどう作るか

年金の繰り下げは、1か月遅らせるごとに0.7%ずつ受給額が増える仕組みです。70歳まで待てば42%、75歳まで待てば84%の増額になります。ただ、この話にはいつも続きがあります——待っている間、何で暮らすのか。増額率だけを見て決めると、この部分が空白のまま残ります。この記事では、待機期間の生活費をどう組み立てるかに絞ってご説明します。

石田健雄 FP事務所FPis代表

執筆:石田 健雄(いしだ たけお)|FP事務所FPis代表

CFP・1級FP技能士。第一生命に35年間勤務後、2025年4月に独立開業。東京都渋谷区。

CFP1級FP技能士独立系FP渋谷

📌 この記事の要点

  1. 繰り下げによる増額率は1か月あたり0.7%。65歳から70歳まで待てば42%増、75歳まで待てば84%増となり、増えた額は終身続きます。
  2. 待機期間の生活費は、貯蓄の取り崩し・就労収入・私的年金の三つを組み合わせて作ります。どれか一つに寄せる必要はありません。
  3. 老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げられます。片方だけ繰り下げて、もう片方を生活費に充てる形も選べます。
  4. 繰り下げ待機中は、加給年金や振替加算が支給されません。該当する方は増額分と比べて判断します。
  5. 増額した年金は課税所得も増えるため、手取りの増え方は増額率どおりにはなりません。社会保険料への影響もあわせて確認します。
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繰り下げの仕組みをおさらいする|増額率と上限

老齢年金の受給開始を65歳より後ろにずらすと、1か月あたり0.7%ずつ増額されます。最長75歳まで繰り下げでき、増額率は最大84%です。増えた金額は生涯続きます。

まず仕組みを確認します。老齢基礎年金・老齢厚生年金は、原則65歳から受け取れます。これを後ろにずらすのが繰り下げ受給です。

受給開始 繰り下げ月数 増額率
66歳 12か月 8.4%増
68歳 36か月 25.2%増
70歳 60か月 42.0%増
72歳 84か月 58.8%増
75歳 120か月 84.0%増

この増額は終身続きます。長く生きるほど累計の受取額が大きくなる仕組みで、長生きへの備えという性格を持ちます。

押さえておきたい3点

  • 基礎年金と厚生年金は別々に繰り下げられます。たとえば厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金だけ70歳まで繰り下げる、という選び方ができます。
  • 途中でやめられます。繰り下げ待機中に受給を申し出れば、その時点までの増額率が適用されます。70歳まで待つと決めても、68歳で気が変わって構いません。
  • さかのぼって受け取る選択もあります。繰り下げを申し出ず、65歳時点からの年金をまとめて受け取る方法もあります(増額はされません)。

出典:日本年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」

待機期間に必要な金額を出す|年数×年間の生活費

繰り下げの判断は、増額率より先に待機期間の必要額を出すところから始まります。65歳から70歳まで待つなら5年分。その間の収入を差し引いた不足額が、用意すべき金額です。

増額率の表を眺める前に、出しておきたい数字があります。待っている間に必要な金額です。

待機期間の必要額 =(年間の支出 − 年間の他の収入)× 待機年数

計算例

項目 Iさん(夫婦) Jさん(おひとりさま)
年間の支出 340万円 200万円
年間の他の収入(就労等) 180万円 60万円
年間の不足額 160万円 140万円
70歳まで(5年)の必要額 800万円 700万円
75歳まで(10年)の必要額 1,600万円 1,400万円

※金額は仕組みを説明するための仮の数値です。

この金額を用意できるかどうかが、繰り下げを選べるかどうかの分かれ目になります。増額率が魅力的でも、待機期間を支えられなければ選択肢になりません。逆に、この金額が用意できるなら、繰り下げは現実的な選択肢として検討に入ります。

⚠️ 待機期間の生活費をすべて貯蓄から取り崩す前提で考えると、資産がかなり減った状態で年金生活に入ることになります。医療費や住まいの修繕に備える分を残せるか、あわせてご確認ください。

三つの財源を組み合わせる|貯蓄・就労・私的年金

待機期間の生活費は、貯蓄の取り崩し、就労収入、私的年金の三つから作ります。一つに寄せず組み合わせることで、資産の減り方をゆるやかにできます。

待機期間を支える財源は、大きく三つです。それぞれ性格が違うため、組み合わせることに意味があります。

①貯蓄の取り崩し

もっとも確実で、金額の調整もききます。ただし資産が目に見えて減っていくため、心理的な負担があります。値動きのある資産から取り崩す場合は、相場が下がった年に多く取り崩すことにならないよう、数年分を現金で持っておく工夫が要ります。

②就労収入

65歳以降も働く方は年々増えています。厚生年金に加入して働けば、その期間分が将来の年金額に反映されるという利点もあります。ただし、老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、給与と年金の合計額によっては在職老齢年金の仕組みで一部が支給停止になります。

📌 繰り下げ待機中は在職老齢年金の影響をどう受けるか
繰り下げ待機中は年金を受け取っていないため、支給停止そのものは生じません。ただし、支給停止に相当する部分は繰り下げによる増額の対象になりません。働きながら繰り下げる場合は、この点を織り込んでおく必要があります。

③私的年金

企業年金、確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)、個人年金保険などです。受け取り開始時期を選べるものが多く、公的年金の待機期間に合わせて受け取る設計ができます。iDeCoは原則60歳から受給でき、年金形式での分割受取も選べます。

財源 強み 気をつける点
貯蓄の取り崩し 金額を自由に調整できる 資産が減る。値動きのある資産は取り崩す時期に注意
就労収入 資産を減らさない。年金額も増える 健康状態に左右される。繰り下げ増額への影響がある場合も
私的年金 受け取り時期を設計できる 受け取り方により税の扱いが変わる

片方だけ繰り下げる|基礎年金と厚生年金を分ける

老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げられます。厚生年金を65歳から受け取って生活費に充て、基礎年金だけを繰り下げる形なら、待機期間の負担を抑えつつ増額を得られます。

繰り下げというと、年金全体を後ろにずらす形を思い浮かべがちです。しかし実際には、基礎年金と厚生年金は別々に扱えます。これが、待機期間の生活費を考えるうえで大きな意味を持ちます。

三つの型

型 内容 向いている場面
両方とも繰り下げ 増額効果は最大。待機期間の負担も最大 就労収入や貯蓄に余裕がある
厚生年金だけ受け取り、基礎年金を繰り下げ 厚生年金で生活費の一部を賄いながら、基礎年金を増やす 厚生年金が比較的多い方
基礎年金だけ受け取り、厚生年金を繰り下げ 基礎年金で生活費の一部を賄う。加給年金が絡む場合に検討 厚生年金の額が大きい方

⚠️ 加給年金にご注意ください。老齢厚生年金に加算される加給年金は、厚生年金を繰り下げている間は支給されません。また、繰り下げによる増額の対象にもなりません。配偶者が年下で加給年金の対象となる方は、厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金だけを繰り下げる形が検討されることがあります。

同様に、老齢基礎年金に加算される振替加算も、基礎年金を繰り下げている間は支給されず、増額の対象にもなりません。

Kさんの例

Kさん(65歳)は老齢厚生年金が年110万円、老齢基礎年金が年78万円。配偶者は3歳年下で加給年金の対象。
→ 厚生年金と加給年金は65歳から受け取り、生活費に充てる
→ 基礎年金だけを70歳まで繰り下げ、42%増(年78万円 → 約111万円)
→ 待機期間に追加で必要な金額は、基礎年金5年分の約390万円

※金額は仕組みを説明するための仮の数値です。実際の判断はご自身の年金額と家族構成によって変わります。

増額分の手取りを確認する|税と社会保険料の影響

年金が増えれば課税所得も増えます。所得税・住民税に加え、介護保険料や医療保険料も所得に応じて決まるため、手取りの増え方は増額率をそのまま反映しません。

「70歳まで待てば42%増える」——この数字は額面についてのものです。実際に手元に残る金額の増え方は、これより小さくなります。

増額に伴って増えるもの

  • 所得税・住民税——公的年金等控除を差し引いた後の金額に課税されます。年金額が増えると、課税対象となる部分も増えます
  • 介護保険料——所得段階に応じて決まるため、段階が上がると保険料も上がります
  • 後期高齢者医療保険料/国民健康保険料——所得割の部分が増えます
  • 医療・介護の自己負担割合——一定の所得を超えると、窓口負担の割合が上がる場合があります

⚠️ とくに注意したいのが自己負担割合です。所得が基準を超えると、医療費の窓口負担が1割から2割、あるいは3割に変わることがあります。年金の増額によってこの基準をまたぐ場合、増額分の一部が医療費の増加で相殺されることもあります。

それでも繰り下げに意味がある場面

手取りの増え方が額面ほどではないとしても、繰り下げには次の性格があります。

  • 増額は終身続きます。長生きするほど、累計の効果が大きくなります
  • 貯蓄は使えば減りますが、年金は使っても減りません。長生きへの備えとして機能します
  • 物価や賃金の変動に応じた改定の対象となるため、増額された金額を土台として改定が行われます

繰り下げは「得か損か」で語られがちですが、何歳まで生きるかは誰にも分かりません。長生きしたときに生活が細らないようにする保険として捉えると、判断の軸が定まりやすくなります。

税務の取扱いについては税理士へのご相談をお勧めします。

待機中に気をつけること|見落としやすい5点

繰り下げ待機中は、加給年金の不支給、遺族年金との関係、障害年金を受けられる状態になった場合の扱いなど、見落としやすい点があります。事前に確認しておくことで、後の想定外を避けられます。

繰り下げを選んだ場合に、あらかじめ知っておきたい点を挙げます。

1. 加給年金・振替加算は支給されない

前述のとおりです。該当する方は、増額分と比べて判断します。

2. 遺族厚生年金を受け取れる状態になった場合

繰り下げ待機中に配偶者が亡くなり、遺族厚生年金を受け取れる状態になると、それ以降は繰り下げによる増額が行われません。その時点までの増額率で受給するか、65歳時点にさかのぼって受け取るかを選ぶことになります。

3. 障害年金を受けられる状態になった場合

同様に、繰り下げの増額が行われなくなります。

4. さかのぼり請求には期限がある

繰り下げを申し出ずに、65歳時点からの年金をまとめて受け取る方法もあります。ただし年金の請求には時効があり、5年を過ぎた分は受け取れなくなります。75歳より後に請求した場合、80歳時点での取扱いなど細かな規定がありますので、年金事務所にご確認ください。

5. 配偶者の年金とあわせて考える

ご夫婦の場合、どちらがいつ受け取り始めるかの組み合わせで、世帯の収入の流れが変わります。おひとりが繰り下げ、おひとりが65歳から受け取るという形も選べます。

📌 確認の窓口
ご自身の年金額と繰り下げの影響は、年金事務所または「ねんきんネット」で確認できます。加給年金の対象になるかどうかも、あわせてお尋ねください。

出典:日本年金機構

決める前に書き出す4項目

繰り下げの判断は、増額率の比較ではなく、待機期間を支えられるかどうかの確認から始めます。必要額、財源、加給年金の有無、手取りの増え方。この4項目で判断材料が揃います。

最後に、判断の前に書き出す項目をまとめます。

  1. 待機期間の必要額。年間の不足額 × 待機年数。何歳まで待つかを複数パターンで出します。
  2. 財源の内訳。貯蓄からいくら、就労収入でいくら、私的年金でいくら。合計が①を上回るかを確認します。
  3. 加給年金・振替加算の有無。対象となる場合、厚生年金は65歳から受け取る形も比べます。
  4. 増額後の手取り。額面の増加分から、税と社会保険料の増加分を差し引いた金額を出します。

判断のかたち
・②が①を上回り、かつ資産に余裕が残る → 繰り下げを検討できます
・②が①に届かない → 繰り下げ年数を短くするか、片方だけ繰り下げる形を検討します
・加給年金の対象 → 基礎年金だけを繰り下げる形を優先して比べます

繰り下げは、一度決めたら変えられないものではありません。待機中に状況が変われば、その時点で受給を申し出ることができます。「70歳まで待つ」と決め込むより、「いったん待ってみる」という始め方のほうが、現実には続けやすいものです。

石田は35年の実務のなかで、年金の受け取り方をめぐるご相談に数多く立ち会ってきました。増額率の大きさに目が向きがちですが、待っている間をどう過ごすかが定まってはじめて、繰り下げは選択肢になります。ご自身の数字で確かめるところから、ご一緒させてください。

よくあるご質問(FAQ)

年金の繰り下げと待機期間の生活費について、ご相談の場で多くいただくご質問をまとめました。

年金の繰り下げで、どのくらい増えますか?
1か月あたり0.7%増額されます。70歳まで繰り下げると42%増、75歳まで繰り下げると84%増です。増えた金額は終身続きます。
繰り下げている間の生活費は、どうすればよいですか?
貯蓄の取り崩し、就労収入、私的年金の三つを組み合わせて作ります。どれか一つに寄せず組み合わせることで、資産の減り方をゆるやかにできます。
基礎年金と厚生年金を別々に繰り下げられますか?
別々に繰り下げられます。厚生年金は65歳から受け取って生活費に充て、基礎年金だけを繰り下げる形も選べます。
途中で気が変わったら、やめられますか?
やめられます。繰り下げ待機中に受給を申し出れば、その時点までの増額率が適用されます。あらかじめ何歳までと決め込む必要はありません。
加給年金がある場合は、どうなりますか?
老齢厚生年金を繰り下げている間、加給年金は支給されず、増額の対象にもなりません。配偶者が年下で加給年金の対象となる方は、厚生年金を65歳から受け取る形とあわせて比べることをお勧めします。
働きながら繰り下げると、どうなりますか?
繰り下げ待機中は年金を受け取っていないため支給停止そのものは生じませんが、在職老齢年金による支給停止に相当する部分は増額の対象になりません。働きながら繰り下げる場合は、この点を織り込んで試算してください。
何歳まで生きれば繰り下げたほうがよかったことになりますか?
累計額で見れば、おおむね受給開始から12年前後で追いつく計算になります。ただし税や社会保険料の影響で手取りベースでは変わります。何歳まで生きるかは分からないため、長生きへの備えとして捉える見方をお勧めしています。
年金が増えると、医療費の窓口負担も増えますか?
一定の所得を超えると、窓口負担の割合が変わる場合があります。繰り下げによってこの基準をまたぐかどうかは、事前にご確認ください。
繰り下げを申し出ず、あとからまとめて受け取れますか?
65歳時点にさかのぼって受け取る方法もあります。ただし年金の請求には時効があり、5年を過ぎた分は受け取れません。増額もされません。
夫婦の場合、どう考えればよいですか?
どちらがいつ受け取り始めるかの組み合わせで、世帯の収入の流れが変わります。おひとりが繰り下げ、おひとりが65歳から受け取るという形も選べます。ご夫婦でのご相談を承っています。

東京・渋谷のFP事務所FPisが選ばれる理由

FP事務所FPis(エフピス)は、東京都渋谷区に拠点を置く独立系FP事務所です。代表の石田健雄は第一生命に35年勤務し、お客様のお金の課題に向き合ってきました。年金の受け取り方についても、待機期間の資金計画からご一緒します。

石田健雄 FP事務所FPis代表

石田 健雄(いしだ たけお)|FP事務所FPis代表

CFP・1級FP技能士。第一生命に35年間勤務後、2025年4月に独立開業。ライフプラン・保険・資産運用・相続のご相談に対応しています。渋谷区渋谷2-19-19 ワコー宮益坂ビル5階。対面・オンライン・LINE・電話で対応。

対応エリア:東京都渋谷区周辺・首都圏全域(オンライン可)

▶ 日経BP(日経ビジネス Human Capital)に取材掲載

「70歳まで働き続けたい。
だからこそ、今このタイミングで独立するべきだ」

石田は第一生命に35年間勤め、本社所属のFPとして多くのお客様に向き合ってきました。40代で個人向け営業の最前線に立った4年間は「会社人生で最も充実していた」と振り返るほど手応えのある日々でした。

とりわけ印象に残っているのが、ご家族への寄り添いサポートです。複雑な手続きを一緒に進めてさしあげると「本当に助かりました」と感謝の言葉をいただきました。「お客様の役に立てる喜び」——その体験が石田の原点です。

2025年3月末に第一生命を退社し、翌4月1日にFPis(エフピス)の看板を掲げました。

📰 出典:「第一生命『黒字リストラ』1000人募集に約2倍応募」(日経BP / Human Capital Online)

FPisが提供できる5つの強み

  • 独立系の中立性:保険会社・証券会社・銀行のいずれにも属さず、お客様の利益を最優先
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📍 FP事務所FPis(エフピス)
東京都渋谷区渋谷2-19-19 ワコー宮益坂ビル5階(渋谷駅・宮益坂口から徒歩約5分)
対面・オンライン・LINE・電話・メール、すべてに対応。首都圏以外からもオンラインでご相談いただけます。

繰り下げを選べるかどうか、数字で確かめませんか。

FP事務所FPisでは、初回90分の相談を無料で承っています。お一人おひとりの状況をうかがったうえで、次にとる順番を一緒に整理します。対面・オンライン・LINE・電話のいずれでもご相談いただけます。

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