おひとりさまの老後の月予算|年金と貯蓄の取り崩しで生活費を組み立てる方法
「老後資金は2,000万円必要」と聞くたびに、手元の通帳を見て息が詰まる——そんな声をよくうかがいます。けれど、総額で考えるかぎり不安は薄まりません。実際に暮らしを支えるのは、毎月いくら使えるのかという一枚の予算表です。この記事では、おひとりさまが年金の手取りを出発点に、貯蓄から月いくら取り崩せるかを決めるまでの順番を、そのまま手を動かせる形でご紹介します。
📌 この記事の要点
- 老後資金は「総額いくら」ではなく「月いくら不足するか」から組み立てると、必要な額の輪郭がはっきりします。
- 年金は額面のまま使えません。介護保険料や住民税などが差し引かれるため、手取りで置き直すところから始めます。
- 単身無職世帯(65歳以上)の消費支出は月およそ15万円前後が平均です(総務省「家計調査」)。ご自身の支出と並べると、ずれが見えます。
- 支出は固定費と変動費に分けます。おひとりさまは固定費の割合が高くなりやすいため、先に固定費を確定させると予算が安定します。
- 取り崩し額は「不足額×12か月×想定年数」で逆算し、介護・住まい・見守りの上乗せ分を別枠で確保しておくと、途中で崩れにくくなります。
なぜ「総額」ではなく「月の予算」から始めるのか
老後資金を総額で捉えると、金額が大きすぎて手が止まります。月いくら不足するかを先に出せば、必要総額はそこから逆算できます。暮らしの単位は月であり、判断も月単位のほうが現実に近づきます。
老後資金の話は、たいてい「総額でいくら」から入ります。ところが総額は、暮らしのどの場面にも対応していません。来月の食費にも、3年後の家電の買い替えにも、直接は結びつかない数字です。
いっぽう月の予算は、そのまま行動に変わります。月13万円で暮らせるのか、16万円かかっているのか。その差が分かれば、貯蓄から埋めるべき金額が決まり、必要な総額も自動的に出てきます。順番が逆になっているだけで、見える景色はずいぶん変わります。
月の予算から始めると決まること
- 貯蓄から毎月いくら取り崩すか(=資産の減り方の速さ)
- その取り崩しを何年続けられるか(=資産が保つ年数)
- 働く期間を延ばすべきか、支出を見直すべきか、という次の一手
考え方の順番
①年金の手取りを出す → ②月の支出を出す → ③不足額を出す → ④取り崩し額と年数を出す → ⑤上乗せ分を別枠で確保する
ご相談の場でも、この順番に沿って一枚の表を作るところから始めます。数字が埋まっていくにつれ、「思っていたより足りている」「ここを直せば届く」と、表情が変わる方が少なくありません。
年金は「手取り」で置き直す|額面との違いを確認する
公的年金からは介護保険料、後期高齢者医療保険料または国民健康保険料、所得税、住民税が差し引かれます。額面のまま予算を組むと、実際に使える額との差が毎月生じます。ねんきん定期便の見込額を手取りに置き直すことが出発点です。
ねんきん定期便に記載されているのは額面です。実際に振り込まれる額は、そこから次のものが差し引かれます。
| 差し引かれるもの | 内容の目安 |
|---|---|
| 介護保険料 | 65歳以降、原則として年金から特別徴収されます。所得段階に応じて市区町村が決めます。 |
| 後期高齢者医療保険料/国民健康保険料 | 75歳以降は後期高齢者医療制度へ。それ以前は国民健康保険などに加入します。 |
| 所得税・復興特別所得税 | 公的年金等控除などを差し引いたうえで課税されます。一定額以下なら課税されません。 |
| 住民税 | 前年の所得にもとづき課税されます。こちらも一定額以下なら課税されません。 |
差引後の手取りは、額面のおおむね85〜95%程度に収まることが多いものの、お住まいの市区町村や他の収入の有無によって幅が出ます。正確な金額を知りたい場合は、年金の支払通知書(年金振込通知書)を見るのが確実です。毎年6月ごろに届き、そこに1回あたりの振込額と控除額が並んでいます。
⚠️ 働きながら年金を受け取る場合は、厚生年金の在職老齢年金の仕組みにより、給与と年金の合計額に応じて年金の一部が支給停止となることがあります。予算を組む前に、この点もあわせてご確認ください。
月の支出を固定費と変動費に分ける|おひとりさまの特徴
おひとりさまの家計は固定費の割合が高くなりやすい傾向があります。住居費や通信費は人数で割れないためです。固定費を先に確定させると、変動費の調整余地がはっきりし、予算が安定します。
支出を分けるときは、毎月ほぼ同じ額が出ていくもの(固定費)と、月によって上下するもの(変動費)の二つに整理します。
| 区分 | おもな項目 | おひとりさまの特徴 |
|---|---|---|
| 固定費 | 家賃または管理費・修繕積立金、水道光熱費の基本料金、通信費、保険料、サブスクリプション | 人数で割れないため、一人あたりの負担が相対的に重くなります |
| 変動費 | 食費、日用品、医療費、交際費、趣味、被服費 | 食材を使い切れず、単価が上がりやすい面があります |
| 不定期費 | 家電の買い替え、旅行、冠婚葬祭、固定資産税、車検 | 年額を12で割り、月額に含めておくとぶれが減ります |
参考までに、総務省「家計調査」における65歳以上の単身無職世帯の消費支出は、月およそ15万円前後で推移しています(年によって変動します)。ここには住居費が持ち家前提の低い水準で含まれているため、賃貸にお住まいの方は家賃分を上乗せして考える必要があります。
不定期費の月額化の例
固定資産税12万円/年+家電買い替え積立6万円/年+旅行12万円/年=30万円/年 → 月2.5万円として予算に組み込む
出典:総務省統計局「家計調査」
不足額の出し方|年金の手取りと支出を並べる
年金の手取りから月の支出を引いた額が、貯蓄から埋めるべき不足額です。この金額に12か月と想定年数を掛ければ、必要な取り崩し総額が出ます。総額から入るより、はるかに現実的な数字になります。
ここまでの二つの数字を並べます。式はいたって単純です。
月の不足額 = 月の支出 − 年金の手取り
必要な取り崩し総額 = 月の不足額 × 12か月 × 想定年数
3つのケースで見る
| ケース | 年金の手取り(月) | 支出(月) | 不足(月) | 30年分の取り崩し総額 |
|---|---|---|---|---|
| Aさん・持ち家 | 13.0万円 | 15.0万円 | 2.0万円 | 約720万円 |
| Bさん・賃貸7万円 | 12.0万円 | 19.0万円 | 7.0万円 | 約2,520万円 |
| Cさん・厚生年金が長い | 16.5万円 | 16.0万円 | 0円(収支均衡) | 0円(予備費は別途) |
※上記は仕組みを説明するための仮の数値です。実際の金額は、加入期間・お住まい・住居形態によって変わります。
この表を見ると、住まいの形が金額を大きく動かしていることが分かります。老後資金の議論では投資の話が先に出がちですが、影響が大きいのはむしろ固定費の側です。AさんとBさんの差1,800万円は、運用で埋めようとすれば相当な時間と値動きの受け入れが必要になります。
また、Cさんのように収支が釣り合っている場合でも、貯蓄をゼロにしてよいわけではありません。医療費や住まいの修繕といった不定期の支出に備える予備費は別に確保しておきます。
取り崩し率という考え方|4%ルールの使いどころと限界
資産の何%を毎年引き出すかという考え方が取り崩し率です。年4%という目安が知られていますが、米国の過去データにもとづく研究が出発点であり、日本の年金受給者にそのまま当てはまるものではありません。目安として使う範囲にとどめます。
「資産の4%を毎年取り崩せば、長期間にわたって資産が保たれやすい」という考え方を耳にしたことがあるかもしれません。いわゆる4%ルールです。1990年代の米国で、過去の株式・債券の値動きをもとに研究されたもので、退職後の引き出し方を考える出発点として広く紹介されてきました。
使いどころ
- 手持ちの資産から年いくらまでなら引き出せそうかの当たりをつける
- 不足額を埋めるのにどれだけの資産が要るかを逆算する(年間不足額 ÷ 4% ≒ 必要資産)
そのまま当てはめにくい理由
- 米国市場の過去データにもとづくもので、将来の成果を示すものではありません
- 日本では公的年金という終身の収入があり、資産だけで生活費を賄う前提とは条件が異なります
- 引き出し始めた直後に相場が下がると、資産の減り方が速まります(収益率配列のリスク)
- 介護費用のように、ある時期にまとまって出る支出が想定に入っていません
⚠️ 取り崩し率はあくまで目安です。相場が下がった年に取り崩し額を一時的に抑える、現金で2〜3年分の生活費を持っておくといった調整を組み合わせることで、資産の持ちが変わってきます。特定の率を守れば資産が保たれる、という性質のものではありません。
ご相談では、年間不足額 ÷ 4% で必要資産のおおよその規模を出し、そこから「働く期間を2年延ばす」「固定費を月1万円下げる」といった現実的な選択肢を並べて比べていきます。
おひとりさま特有の上乗せ|介護・住まい・見守りの費用
おひとりさまの予算では、家族が担う前提の部分を費用として見込む必要があります。介護が必要になったときの施設費用、住み替えの費用、身元保証や見守りのサービス費用が、その代表です。
ご家族と同居されている方の家計では、送迎や身の回りの世話、入院時の手続きなどを家族が担うことが前提になっています。おひとりさまの場合、その部分を費用として見込んでおくことになります。
| 項目 | 見込み方 |
|---|---|
| 在宅介護 | 公的介護保険の自己負担(原則1割、所得により2〜3割)に加え、保険外のサービス費用。要介護度により幅があります。 |
| 施設入居 | 入居一時金と月額利用料。施設の種類によって金額の幅がきわめて大きく、地域差もあります。 |
| 住み替え | 引っ越し費用、敷金・礼金、家具の入れ替え。高齢期の賃貸契約では保証の手当てが必要になることがあります。 |
| 身元保証・見守り | 入院や入居の際の身元保証、緊急時の連絡先、日常的な見守りを担うサービスの契約費用。 |
| 死後事務 | 葬儀・納骨、住まいの片づけ、各種契約の解約。生前に委任契約を結んでおく方法があります。 |
これらを毎月の予算に溶かし込んでしまうと、必要なときに取り出せません。別枠の予備資金として、取り崩しの対象から外しておく組み方をお勧めしています。金額の目安は生活水準やお考えによって変わりますので、ご相談のなかで具体的に詰めていきます。
📌 予算を二つに分ける
①毎月の生活費を支える取り崩し枠 ②介護・住まい・見送りに備える別枠
①だけを月の予算に反映させ、②には手をつけない設計にすると、途中で計画が崩れにくくなります。
予算表を一枚にまとめる|今日からできる手順
年金の手取り、固定費、変動費、不定期費の月額、不足額、取り崩し年数。この6項目を一枚の紙に書き出せば、老後の予算表は完成します。特別な道具は要らず、30分ほどで形になります。
最後に、手を動かす順番をまとめます。紙一枚と通帳、年金の書類があれば始められます。
手順
- 年金の手取りを書く。年金振込通知書の1回あたりの振込額を2で割ると、月あたりの手取りになります(年6回・2か月分ずつの振込のため)。まだ受給前なら、ねんきん定期便の額面に0.9を掛けた概算から始めて構いません。
- 固定費を書き出す。通帳とクレジットカードの明細から、毎月引き落とされているものを拾います。サブスクリプションの見落としが多いところです。
- 変動費を書く。直近3か月の平均で十分です。細かく分類する必要はありません。
- 不定期費を月額に直す。年間の合計を12で割ります。
- 不足額を出す。②③④の合計から①を引きます。
- 取り崩し年数を出す。生活費用の貯蓄(別枠を除く)を、不足額×12で割ります。
記入例
①年金の手取り 12.8万円/②固定費 9.2万円/③変動費 5.4万円/④不定期費 2.0万円
→ 支出合計 16.6万円 ⑤不足額 3.8万円/月
→ 生活費用の貯蓄1,500万円 ÷(3.8万円×12)= 約32.8年分
この一枚ができると、次に考えるべきことが具体的になります。年数が足りなければ、固定費のどこを下げるか、働く期間をどうするか、資産の置き場所をどう変えるか。逆に十分であれば、使うことに前向きになれる方も多くいらっしゃいます。
石田は35年の実務のなかで、この一枚を一緒に作る場面に幾度も立ち会ってきました。数字を前にして不安が言葉になり、そこから順番が決まっていく——その過程にこそ、意味があると考えています。
よくあるご質問(FAQ)
おひとりさまの老後の月予算について、ご相談の場でとくに多いご質問をまとめました。金額の目安と、考え方の順番をあわせてご確認ください。
おひとりさまの老後資金は、いくらあれば足りますか?
年金の手取りは、どこを見れば分かりますか?
持ち家と賃貸では、どのくらい違いますか?
4%ルールは、日本でも使えますか?
貯蓄はいくら現金で持っておくとよいですか?
介護費用は、いくら見込んでおけばよいですか?
身元保証のサービスは、どのくらい費用がかかりますか?
働き続ければ、年金は増えますか?
予算表は、どのくらいの頻度で見直せばよいですか?
相談するとき、何を持っていけばよいですか?
東京・渋谷のFP事務所FPisが選ばれる理由
FP事務所FPis(エフピス)は、東京都渋谷区に拠点を置く独立系FP事務所です。代表の石田健雄は第一生命に35年勤務し、お客様のお金の課題に向き合ってきました。おひとりさまの老後設計についても、予算表づくりから継続的に伴走します。
石田 健雄(いしだ たけお)|FP事務所FPis代表
CFP・1級FP技能士。第一生命に35年間勤務後、2025年4月に独立開業。ライフプラン・保険・資産運用・相続のご相談に対応しています。渋谷区渋谷2-19-19 ワコー宮益坂ビル5階。対面・オンライン・LINE・電話で対応。
対応エリア:東京都渋谷区周辺・首都圏全域(オンライン可)
「70歳まで働き続けたい。
だからこそ、今このタイミングで独立するべきだ」
石田は第一生命に35年間勤め、本社所属のFPとして多くのお客様に向き合ってきました。40代で個人向け営業の最前線に立った4年間は「会社人生で最も充実していた」と振り返るほど手応えのある日々でした。
とりわけ印象に残っているのが、ご家族への寄り添いサポートです。複雑な手続きを一緒に進めてさしあげると「本当に助かりました」と感謝の言葉をいただきました。「お客様の役に立てる喜び」——その体験が石田の原点です。
2025年3月末に第一生命を退社し、翌4月1日にFPis(エフピス)の看板を掲げました。
📰 出典:「第一生命『黒字リストラ』1000人募集に約2倍応募」(日経BP / Human Capital Online)
FPisが提供できる5つの強み
- 独立系の中立性:保険会社・証券会社・銀行のいずれにも属さず、お客様の利益を最優先
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📍 FP事務所FPis(エフピス)
東京都渋谷区渋谷2-19-19 ワコー宮益坂ビル5階(渋谷駅・宮益坂口から徒歩約5分)
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