退職日を月末にするか月末前にするか|手取りで変わること
退職の意思を伝えたあと、「では、退職日はいつにしますか」と聞かれます。なんとなく月末、あるいは有給の消化が終わる日。そう決めてしまう方が多い部分です。ところが退職日が1日違うだけで、その月の社会保険料の負担も、厚生年金の加入月数も変わります。この記事では、退職日を決める前に確認しておきたい点を、お金の動く順に整理します。
📌 この記事の要点
- 社会保険の資格を失う日は退職日の翌日です。この1日のずれが、その月の保険料を会社と折半するか、全額自己負担するかを分けます。
- 月末退職ならその月も厚生年金の加入月に入ります。月末前に辞めると、その月は国民年金の月になります。将来の年金額にわずかながら差が出ます。
- 月末前に辞めると、その月の給与から社会保険料が引かれない代わりに、国民健康保険料と国民年金保険料を全額自分で払います。手取りが増えるとは限りません。
- 退職所得控除は勤続年数の1年未満を切り上げて計算します。入社月との関係で、数日ずらすだけで控除額が変わる場合があります。
- 住民税は1月から4月に辞める場合、原則として5月分までが最後の給与から一括徴収されます。手取りが大きく減る月が出ることを見込んでおきます。
退職日の翌日が、資格を失う日になります
健康保険と厚生年金の資格喪失日は、退職日の当日ではなく翌日です。保険料はその資格喪失日の属する月の前月分までを納めるため、月末か月末前かで1か月分の扱いが変わります。
ここがすべての出発点です。言葉だけだと分かりにくいので、具体例で見ます。
| 退職日 | 資格喪失日 | その月の社会保険料 |
|---|---|---|
| 10月31日(月末) | 11月1日 | かかります(会社と折半) |
| 10月30日(月末前) | 10月31日 | かかりません |
1日違うだけで、10月分の健康保険料と厚生年金保険料がかかるかどうかが変わります。かかる場合は会社と折半ですので、ご自身の負担はおおむね半分です。
⚠️ 「保険料がかからない」は「負担がない」ではありません。月末前に辞めてその月の厚生年金・健康保険の資格を失うと、その月は国民年金の第1号被保険者となり、国民健康保険か任意継続に入ることになります。こちらは全額自己負担です。
どちらが得かは、金額を並べて比べます
| 月末退職 | 月末前退職 | |
|---|---|---|
| その月の厚生年金保険料 | かかる(会社と折半) | かからない |
| その月の健康保険料 | かかる(会社と折半) | かからない |
| その月の国民年金保険料 | かからない | かかる(全額自己負担) |
| その月の国民健康保険料等 | かからない | かかる(全額自己負担) |
| 厚生年金の加入月数 | その月も入ります | その月は入りません |
給与水準が高い方ほど、厚生年金保険料は国民年金保険料より大きくなります。折半であっても月末退職のほうが負担が大きくなる場合があります。一方で、その月が厚生年金の加入月に入る分、将来の年金額には反映されます。
年金の加入月数への影響
月末に退職するとその月も厚生年金の加入月に数えられます。1か月分の差は年金額としてはわずかですが、加入月数が節目にかかる場合は確認の価値があります。
老齢厚生年金の額は、加入期間中の報酬と加入月数をもとに計算します。1か月の違いによる年金額の差はごく小さなものです。ただし、次のような場面では意味を持つことがあります。
- 加入期間が240か月(20年)の前後にある場合:加給年金の要件に関わります
- 老齢基礎年金の納付済期間が480か月に満たない場合:満額に近づける意味があります
- 受給資格期間に不足がある場合:そもそも受け取れるかどうかに関わります
📌 加入月数は、ねんきん定期便かねんきんネットで確認できます。節目に近いかどうかは、ご自身の記録を見ないと判断できません。退職日を決める前に、一度ご確認ください。不明な点は年金事務所にお問い合わせいただけます。
Aさんの例
57歳のAさんは、早期退職の募集に応じることを決め、退職日を3月20日にする案で話が進んでいました。ねんきんネットで確認したところ、厚生年金の加入月数が239か月でした。3月末まで在籍すれば240か月になることがわかり、会社と相談のうえ退職日を3月31日に変更されています。
退職所得控除は勤続年数の切り上げで決まります
退職金にかかる税金を抑える退職所得控除は、勤続年数をもとに計算します。1年未満の端数は切り上げるため、入社月との関係で数日の違いが控除額を変える場合があります。
退職所得控除の額は、勤続年数によって次のように計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
ここでの勤続年数は、入社日から退職日までの期間で、1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。
切り上げの効き方
たとえば4月1日入社の方の場合、退職日が3月31日なら勤続年数はちょうどの年数になります。4月1日まで在籍すると、1日だけ超えた分が1年に切り上げられます。勤続20年超の区分であれば、控除額が70万円増えることになります。
⚠️ 控除額が増えても、手取りが増えるとは限りません。1日長く在籍することで給与や社会保険料の扱いも変わります。また退職金の額が控除額を下回っていれば、控除が増えても税額は変わりません。ご自身の退職金額と控除額を並べて確認してください。具体的な税額の計算については、税務署または税理士にご確認・ご相談ください。
同じ年に複数の退職金を受け取る場合
企業型DCの一時金や、以前の勤務先からの退職金を同じ年に受け取る場合、控除の計算が一度にまとめて行われたり、過去の勤続年数が重なる部分を差し引いたりする扱いがあります。受け取る年をずらすかどうかも含めて、税理士にご相談いただくことをお勧めします。
住民税は辞める時期で徴収のされ方が変わります
住民税は前年の所得をもとに計算し、翌年6月から翌々年5月にかけて納めます。退職の時期によって、残りの分が一括で徴収されるか自分で納めるかが変わります。
| 退職の時期 | 残りの住民税の扱い |
|---|---|
| 1月〜4月 | 原則として5月分までが最後の給与や退職金から一括徴収されます |
| 5月 | その月の分が徴収されて終わります |
| 6月〜12月 | 一括徴収か、自分で納付するかを選べます |
1月から4月に退職される場合、最後の給与の手取りが大きく減ります。退職金から差し引かれる場合もあります。金額は前年の所得によりますが、数十万円になることもあります。
📌 退職の翌年も住民税は来ます。退職した年に収入があれば、その所得をもとにした住民税が翌年に請求されます。収入がない年に、前年の収入に対する住民税を納めることになります。退職後1年目の家計で、見落としやすい部分です。
Bさんの例
50代後半のBさんは、退職日を3月31日に設定されていました。最後の給与明細を見て、住民税が4月分から5月分までまとめて差し引かれており、手取りが想定より大きく減っていました。その月の生活費を預金から補うことになり、計画していた退職金の置き方を一度見直すことになっています。
賞与・有給・雇用保険との関係
退職日の設定は、賞与の支給要件、有給休暇の消化、雇用保険の被保険者期間にも関わります。それぞれ基準になる日が異なるため、個別に確認が要ります。
賞与の支給要件
多くの会社が「支給日に在籍していること」を賞与の支給要件としています。支給日の前日に退職すると、計算期間中に働いていても支給されない場合があります。就業規則をご確認ください。
有給休暇の消化
有給休暇は在職中にしか使えません。退職日を決めるときは、残日数を消化したうえでその日を迎えられるかを逆算します。なお有給の消化中も在籍扱いですので、社会保険の資格は続いています。
雇用保険の被保険者期間
失業給付を受けるための被保険者期間は、離職日から1か月ごとに区切って数えます。賃金支払の基礎となった日数が11日以上ある月を1か月と数える仕組みです。期間がぎりぎりの場合、退職日のずらし方で数え方が変わることがあります。ハローワークにご確認ください。
企業型DCの移換
企業型DCに加入していた場合、資格を失ってから6か月以内に移換の手続きをしないと、自動移換となり手数料がかかることがあります。退職日が決まった時点で、移換先を考え始めておくことをお勧めします。
退職日を決める前に確認する7つ
退職日は、複数の制度の基準日が重なる日です。確認の順番を決めておくと、あとから気づく部分が減ります。
- 厚生年金の加入月数をねんきんネット等で確認します(240か月などの節目に近くないか)
- 入社日を確認し、勤続年数の切り上げが効く日を計算します
- 退職金の見込額と退職所得控除額を並べます(控除額を下回っていれば切り上げの効果はありません)
- その月の社会保険料を、月末退職と月末前退職の両方で見積もります
- 住民税の一括徴収がある時期かどうかを確認します
- 賞与の支給日と在籍要件を就業規則で確認します
- 有給の残日数を確認し、消化できる日程かを逆算します
📌 35年の実務のなかで
退職日について相談を受ける機会は、意外と多くありません。多くの方が「会社が示した日」か「有給が終わる日」でそのまま決めておられます。ところが7つのうち1つでも節目に近いと、数日の違いで結果が変わります。退職日は、交渉の余地が残っている数少ない部分です。
⚠️ 会社の都合で動かせない場合もあります。引き継ぎの日程、募集の条件、就業規則の定め。希望が通らないこともありますが、どの数字がどう変わるかを把握したうえで相談するのと、何も知らずに決めるのとでは、結果が変わることがあります。
退職日の決め方についてよくあるご質問
退職日の設定について、退職を控えた方からいただくご質問をまとめました。社会保険料、年金の加入月数、退職所得控除、住民税を扱っています。
月末に辞めるのと月末前に辞めるのは、どちらが得ですか。
資格喪失日とは何ですか。
1日の違いで年金額はどのくらい変わりますか。
退職所得控除の勤続年数はどう数えますか。
退職金が控除額より少ない場合、退職日をずらす意味はありますか。
住民税が一括で引かれると聞きました。
有給休暇を消化している間も社会保険に入っていますか。
賞与の支給日の直前に辞めると、賞与はもらえませんか。
企業型DCの手続きはいつまでですか。
退職日について会社と相談してもよいものですか。
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2025年3月末に第一生命を退社し、翌4月1日にFPis(エフピス)の看板を掲げました。
📰 出典:「第一生命『黒字リストラ』1000人募集に約2倍応募」(日経BP / Human Capital Online)
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FP事務所FPis(東京都渋谷区)/対面・オンライン・LINE・電話
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の投資判断・契約の勧誘・税務および法律に関する助言を目的とするものではありません。掲載している制度・税制・料率は執筆時点の情報にもとづいており、今後の制度改正により取り扱いが変わる場合があります。
実際の税額・年金額・社会保険料の計算や各種手続きについては、お住まいの自治体、年金事務所、税務署、または税理士・弁護士・司法書士などの専門家にご確認・ご相談ください。金融商品にはそれぞれ価格変動リスク・為替リスク・信用リスク等があり、運用の成果によっては元本を下回る可能性があります。
FP事務所FPis/代表 石田健雄(CFP・1級FP技能士)。所属先を通じて生命保険・損害保険・金融商品仲介の募集人として登録しています。

