おひとりさまが仕事を辞める時期|65歳以降の収入の決め方
「体が動くうちは働こうと思っています」。おひとりさまの方から、よくうかがう言葉です。ただ、「いつまで」を決めていないと、辞める決断はずっと先送りになります。そして体調を崩してから急に辞めることになると、収入も保険も手続きも、まとめて変わります。この記事では、辞める時期を決めるときに見る3つの軸と、年齢ごとに変わる制度を整理します。
📌 この記事の要点
- 65歳以降も厚生年金に加入して働くと、在職定時改定により毎年10月分から年金額が増えていきます。働くことが年金に反映される仕組みです。
- 年金を受け取りながら厚生年金に加入して働く場合、賃金と年金の合計が基準額を超えると年金の一部が止まります。基準額は毎年度見直されます。
- 65歳以降に退職した場合、失業給付は高年齢求職者給付金という一時金になります。65歳前に辞める場合と金額も形も違います。
- おひとりさまの場合、辞める時期の判断には収入のほかに、健康保険と社会とのつながりという2つの軸が加わります。
- 辞める日を決めていないと、体調を崩してから急に辞めることになり、収入も手続きも同時に動きます。目安の年齢を先に置いておくことに意味があります。
「働けるうちは」が判断を先送りにします
辞める時期を決めていないと、判断の機会が訪れません。結果として、体調や職場の事情が決める形になります。目安を置くことは、その日を固定することではありません。
ご家族がいる場合、配偶者の退職やお子さまの独立といった出来事が、働き方を考え直すきっかけになります。おひとりさまの場合、外から来るきっかけがありません。だから「働けるうちは」のまま年数が過ぎます。
⚠️ 急に辞めることになると、複数のことが同時に動きます。収入が止まり、健康保険が変わり、年金の請求時期と重なり、生活のリズムも変わります。これらを一度に判断するのは負担が大きい部分です。
目安を置くことの意味
「68歳を目安にする」と決めておくと、その2〜3年前から準備が始められます。目安は変えて構いません。変えられるからこそ、置いておく意味があります。
Aさんの例
62歳で独身のAさんは、再雇用で働いておられました。「体が動くうちは」とお考えでしたが、ご相談のなかで「67歳を目安にする」と仮に置いてみました。そこから逆算すると、65歳での年金請求、66歳での住まいの見直し、67歳での健康保険の切り替えという順番が見えてきました。Aさんは「決めたというより、考える順番ができた」とおっしゃっています。
軸1|収入|働き続けると年金はどうなるか
65歳以降も厚生年金に加入して働くと、在職定時改定により毎年年金額が増えます。一方で賃金と年金の合計が基準額を超えると、年金の一部が支給停止になります。
在職定時改定
65歳以降に厚生年金に加入して働いている場合、毎年9月1日を基準日として年金額が見直され、その年の10月分から増えた額が反映されます。従来は退職するまで反映されませんでしたが、毎年反映される形になりました。
📌 厚生年金に加入できるのは70歳までです。70歳を過ぎても働くことはできますが、厚生年金の被保険者ではなくなるため、保険料の負担がなくなる代わりに、年金額がそれ以上増えることもなくなります。
在職老齢年金による支給停止
年金を受け取りながら厚生年金に加入して働く場合、その月の賃金(標準報酬月額と賞与を月割りした額の合計)と老齢厚生年金の月額の合計が基準額を超えると、超えた分の半分にあたる年金が支給停止になります。
| 確認する点 | 内容 |
|---|---|
| 対象になる年金 | 老齢厚生年金の部分です。老齢基礎年金は対象外で、止まりません |
| 基準額 | 毎年度見直されます。最新の額は日本年金機構でご確認ください |
| 支給停止の額 | 基準額を超えた分の2分の1に相当する額です |
| 止まった分 | あとから受け取れるものではありません |
⚠️ 「働くと損」とは限りません。止まるのは超えた分の半分であり、賃金そのものは受け取れます。また在職定時改定によって年金額は増えていきます。全体として手取りがどうなるかは、賃金の水準によって変わりますので、ご自身の数字で確認してください。
軸2|健康保険|辞めたあとの入り先
おひとりさまの場合、退職後に家族の被扶養者になるという選択肢がありません。任意継続か国民健康保険かの2択になり、75歳からは後期高齢者医療制度に移ります。
| 選択肢 | 期限 | 保険料 |
|---|---|---|
| 任意継続 | 退職後20日以内に申出 | 在職中の全額(会社負担分も自己負担)。上限があります。最長2年間 |
| 国民健康保険 | 退職後14日以内に届出 | 前年の所得で計算。お住まいの自治体の料率によります |
| ご家族の被扶養者 | — | おひとりさまの場合、対象になる方が限られます |
配偶者やお子さまが会社員であれば被扶養者になる道がありますが、おひとりさまの場合はこの選択肢が実質的にありません。任意継続と国民健康保険の2つを、両方とも試算して比べてください。
退職の翌年に保険料が下がります
国民健康保険料は前年の所得で計算されます。退職した年の所得が高ければ、翌年の保険料は高くなります。2年目からは所得が下がった分だけ保険料も下がります。任意継続は最長2年ですので、1年目は任意継続、2年目に国民健康保険へという判断になる場合があります。
📌 75歳からは後期高齢者医療制度です。任意継続も国民健康保険も、75歳になると後期高齢者医療制度に移ります。選択の問題はここで終わります。
65歳以降に辞めた場合の失業給付
65歳以降に退職した場合、受け取れるのは基本手当ではなく高年齢求職者給付金です。
| 65歳前の退職 | 65歳以降の退職 | |
|---|---|---|
| 給付の名称 | 基本手当 | 高年齢求職者給付金 |
| 支給の形 | 認定日ごとに継続して支給 | 一時金として一度に支給 |
| 年金との関係 | 特別支給の老齢厚生年金との調整があります | 老齢年金と併給できます |
手続きはハローワークで行います。要件や金額についてはハローワークにご確認ください。
軸3|つながり|収入以外に失われるもの
おひとりさまの場合、職場が社会とのつながりの主要な場になっていることがあります。辞めると収入と同時に、そのつながりも途切れます。
これは数字にならない部分ですが、おひとりさまの方の退職後に、実際にいちばん影響が大きい部分でもあります。
- 日々の会話の相手がなくなります
- 決まった時間に出かける用事がなくなります
- 体調の変化に気づいてくれる人がいなくなります
⚠️ 3つ目は、おひとりさまにとって実務的な問題です。毎日顔を合わせる相手がいないと、体調の変化に誰も気づきません。辞める前に、週に何度か人と会う予定を別に作っておく形をお勧めしています。
段階的に減らすという方法
フルタイムから一気にゼロにするのではなく、週3日、週2日と段階的に減らす方法があります。収入の減り方がなだらかになり、生活のリズムも徐々に変えられます。
| 働き方 | 厚生年金 | 健康保険 |
|---|---|---|
| フルタイム | 加入(70歳まで) | 勤務先の健康保険 |
| 短時間勤務 | 要件を満たせば加入 | 要件を満たせば勤務先の健康保険 |
| 要件を満たさない働き方 | 加入しません | 国民健康保険など |
短時間勤務で社会保険に加入できるかどうかの要件は、労働時間・賃金・勤務先の規模などによって決まり、制度改正によっても変わります。勤務先または年金事務所にご確認ください。
Bさんの例
66歳で独身のBさんは、週5日の勤務を週3日に減らされました。収入は減りましたが、社会保険には引き続き加入でき、在職定時改定で年金も少しずつ増えています。空いた2日を地域の活動にあてるようになり、「辞めたあとの予定が先に作れた」とおっしゃっています。
年齢ごとに変わること
働き方と年金・保険の扱いは、年齢の節目で変わります。節目を把握しておくと、辞める時期の候補が絞られます。
| 年齢 | 変わること |
|---|---|
| 60歳 | 国民年金の加入義務が終わります(納付済期間が足りない場合は任意加入の検討ができます) |
| 65歳 | 老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始年齢です(繰り下げを選ぶこともできます)。退職した場合の給付が高年齢求職者給付金に変わります |
| 70歳 | 厚生年金に加入できる上限です。保険料の負担がなくなる一方、年金額もそれ以上増えなくなります |
| 75歳 | 後期高齢者医療制度に移ります。年金の繰り下げの上限年齢でもあります |
📌 節目を使って目安を置く方法があります。「65歳で年金を受け取り始めて、70歳で厚生年金の加入が終わるタイミングで辞める」。このように制度の節目に合わせると、手続きが重ならず、収入の変化も把握しやすくなります。
辞める時期を決める手順
3つの軸を順番に確認していくと、ご自身にとっての目安が見えてきます。数字で出せる部分から始めます。
- 年金の見込額を確認します。ねんきん定期便またはねんきんネットで、65歳からの額を見ます
- 生活費の月額を出します。直近1年の支出から概算します
- 年金だけで足りるかを見ます。足りない場合、不足額が働く必要のある金額です
- 働いた場合の年金の支給停止を確認します。賃金の水準によって変わります
- 辞めたあとの健康保険料を試算します。任意継続と国民健康保険の両方で見積もります
- 職場以外のつながりを書き出します。辞めたあと、週に何度人と会う予定があるかを確認します
- 目安の年齢を置きます。変えて構いません。置くことで準備の順番が決まります
📌 35年の実務のなかで
おひとりさまの方のご相談で、辞める時期について最初にうかがうのは収入の話ですが、お話が進むと多くの方が6番目で手が止まります。職場以外に定期的に会う人がいない。この部分は、お金の計画と同じくらい時間をかけて準備する価値があります。
年金の支給停止額や社会保険の加入要件は制度改正によって変わります。ご自身の具体的な金額については、年金事務所や勤務先にご確認ください。
おひとりさまが仕事を辞める時期についてよくあるご質問
おひとりさまの方からいただく、65歳以降の働き方と退職時期についてのご質問をまとめました。年金、健康保険、給付を扱っています。
65歳以降も働くと年金は増えますか。
働くと年金が止まると聞きました。
支給停止になった年金は、あとで受け取れますか。
65歳以降に辞めると失業給付はもらえますか。
退職後の健康保険はどちらを選べばよいですか。
おひとりさまでも家族の扶養に入れますか。
何歳を目安にすればよいですか。
週3日に減らすと社会保険から外れますか。
70歳を過ぎても働けますか。
辞めたあとの生活リズムが心配です。
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📰 出典:「第一生命『黒字リストラ』1000人募集に約2倍応募」(日経BP / Human Capital Online)
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の投資判断・契約の勧誘・税務および法律に関する助言を目的とするものではありません。掲載している制度・税制・料率は執筆時点の情報にもとづいており、今後の制度改正により取り扱いが変わる場合があります。
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FP事務所FPis/代表 石田健雄(CFP・1級FP技能士)。所属先を通じて生命保険・損害保険・金融商品仲介の募集人として登録しています。

