退職後1年目の生活費|失業給付と退職金を使う順番
退職の日は決まった。退職金の額もわかった。それでも「最初の1年をどう回すのか」という部分だけが、ぼんやり残っている。ご相談のなかでいちばん多いのが、この状態です。1年目は収入の形がもっとも大きく変わり、しかも住民税と社会保険料の請求が重なります。この記事では、使えるお金がいつ入るのか、どの順番で使うのかを、退職の日からの流れにそって整理します。
📌 この記事の要点
- 退職後1年目の収入は失業給付・資産からの取り崩し・働いた分の3つだけです。この3つの入る時期を並べることが出発点になります。
- 失業給付は自己都合か会社都合かで開始時期と日数が大きく変わります。希望退職への応募は、判定によって扱いが変わることがあります。
- 健康保険は任意継続・国民健康保険・被扶養者の3択で、退職後20日以内という期限があるものがあります。先に決めておく部分です。
- 住民税と社会保険料は前年の所得で決まるため、収入が下がった1年目にいちばん重く来ます。ここを見込んでおく必要があります。
- 使う順番は失業給付→預金→運用資産が基本です。運用資産を1年目に売ると、相場の状況によらず売ることになります。
退職後1年目の収入は3つしかない
退職後の収入は、雇用保険の失業給付、資産からの取り崩し、働いて得る分の3つです。それぞれ入る時期が異なるため、月ごとに並べることで不足する月が見えてきます。
退職後の1年を計画するとき、まず入ってくるお金を3つに分けます。
| 収入 | 入る時期 | 金額の決まり方 |
|---|---|---|
| 失業給付(基本手当) | 手続きから1か月〜4か月後に開始 | 退職前6か月の賃金と年齢で決まります |
| 資産からの取り崩し | いつでも | ご自身で決めます |
| 働いて得る分 | 次の仕事が決まってから | 働き方によります |
退職金は「収入」ではなく資産として扱います。毎月入ってくるものではないためです。
月ごとに並べると不足月が見えます
紙に12か月の枠を書き、それぞれの月に入る金額と出る金額を書き込みます。すると、失業給付が始まる前の1〜4か月と、住民税と社会保険料の請求が来る月に穴があることが見えてきます。
📌 1年目に出ていくお金で見落としやすいもの
①住民税(前年の所得で計算・退職後は自分で納付)
②国民健康保険料または任意継続の保険料(全額自己負担)
③国民年金保険料(60歳未満の場合)
④所得税の精算(年末調整がないため確定申告で)
この4つで、月あたり5万円から10万円を超えることがあります。
失業給付はいつから、いくら、何日分か
失業給付は手続き後の待期7日を経て支給が始まりますが、自己都合退職の場合は原則2か月の給付制限があります。日額と日数は退職前の賃金、年齢、被保険者期間で決まります。
開始までの流れ
- 退職後、会社から離職票が届きます(通常10日〜2週間程度)
- ハローワークで求職の申込みと受給資格の決定を受けます
- 待期期間7日を経過します
- 自己都合退職の場合は、さらに原則2か月の給付制限があります(5年内に2回を超える場合は3か月)
- 支給が始まり、原則4週間ごとの認定日に応じて振り込まれます
⚠️ 離職票が届くまでの期間が計算に入っていない方が多くいらっしゃいます。退職日から手続き開始までに2週間、そこから会社都合でも1か月ほど、自己都合なら3か月ほど。最初の振込までの生活費は、預金でまかなうことになります。
基本手当日額
退職前6か月の賃金をもとに計算した賃金日額に、給付率(50%〜80%程度・賃金が低いほど高い率)をかけて出します。年齢区分ごとに上限額があり、60歳〜64歳の区分は上限が低めに設定されています。上限額は毎年8月1日に改定されます。
所定給付日数
| 区分 | 被保険者期間20年以上の場合 |
|---|---|
| 一般の受給資格者(自己都合など) | 150日 |
| 特定受給資格者(会社都合など)45歳〜59歳 | 330日 |
| 特定受給資格者(会社都合など)60歳〜64歳 | 240日 |
自己都合と会社都合で、日数が2倍以上変わります。しかも自己都合には給付制限が付きます。この差は1年目の家計に直接効いてきます。
📌 失業給付は非課税です
基本手当に所得税・住民税はかかりません。翌年の住民税や国民健康保険料の算定にも含まれません。手取りベースで考えるときに有利に働く部分です。
早期退職に応募した場合の扱い|判定で変わる部分
会社の希望退職の募集に応じた場合、特定受給資格者と判定されることがあります。判定はハローワークが離職票の離職理由などをもとに行うため、事前の確認が要ります。
早期退職優遇制度や希望退職の募集に応じた場合、自分で辞めたのだから自己都合だろうと考えられる方が多くいらっしゃいます。ここは確認したい部分です。
特定受給資格者に該当しうる場合
事業主が人員整理などを目的として希望退職を募集し、それに応じて退職した場合、特定受給資格者と判定されることがあります。該当すると、給付制限がなく、所定給付日数も長くなります。
| 一般の受給資格者 | 特定受給資格者 | |
|---|---|---|
| 給付制限 | 原則2か月 | ありません |
| 所定給付日数(20年以上・45〜59歳) | 150日 | 330日 |
| 国民健康保険料の軽減 | 対象外 | 軽減措置の対象になる場合があります |
⚠️ 判定はハローワークが行います。会社が離職票に記載する離職理由が判断の材料になります。募集に応じて退職される場合、会社の担当部署に「離職理由をどう記載するか」を事前に確認しておくことをお勧めします。記載内容に疑問がある場合は、ハローワークで異議を申し立てる仕組みもあります。
国民健康保険料の軽減について
特定受給資格者などに該当する場合、国民健康保険料の算定において前年の給与所得を30%として計算する軽減措置があります。退職後1年目の保険料は前年の所得で決まるため、この軽減が使えるかどうかで負担が大きく変わります。お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
健康保険と年金の手続き|退職後20日という期限
退職後の健康保険は任意継続、国民健康保険、家族の被扶養者の3択です。任意継続には退職後20日以内という申出期限があるため、退職前に保険料を比べておく必要があります。
健康保険の3択
| 選択肢 | 期限 | 保険料 | 向く場合 |
|---|---|---|---|
| 任意継続 | 退職後20日以内に申出 | 在職中の全額(会社負担分も自己負担)。上限あり | 扶養するご家族が複数いる場合など |
| 国民健康保険 | 退職後14日以内に届出 | 前年の所得で計算。軽減措置がある場合あり | 前年の所得が低い場合、軽減が使える場合 |
| ご家族の被扶養者 | 速やかに | 追加の負担はありません | 配偶者が会社員で、収入要件を満たす場合 |
⚠️ 任意継続の期限は退職後20日以内です。この期限を過ぎると選べなくなります。退職前に、任意継続の保険料の見込みを勤務先の健康保険組合に、国民健康保険料の見込みをお住まいの自治体に、それぞれ問い合わせて比べておくことをお勧めします。
比べる手順
- 勤務先の健康保険組合に任意継続の月額保険料を聞きます
- お住まいの自治体の国民健康保険の窓口で試算してもらいます(前年の所得がわかる書類を持参)
- 特定受給資格者に該当しそうな場合は、軽減措置を適用した金額も聞きます
- 配偶者が会社員の場合、被扶養者になれるかを配偶者の勤務先に確認します
年金の手続き
- 60歳未満の方:国民年金の第1号被保険者となり、保険料の納付義務があります。退職後14日以内に市区町村で手続きします
- 配偶者が会社員の場合:収入要件を満たせば第3号被保険者になれる場合があります
- 60歳以上の方:国民年金の加入義務は終わりますが、加入期間が40年に足りない場合は任意加入で増やせます
国民年金保険料の納付が家計に重い場合、免除や納付猶予の仕組みがあります。ただし免除された期間は年金額の計算上、全額納付より少なくなります(一部は反映されます)。追納できる期間にも限りがあります。
使う順番を決める|給付・預金・運用資産
退職後1年目は、失業給付を先に使い、次に預金、最後に運用資産という順番が基本です。運用資産を1年目に売ると、相場の状況を選べないまま売ることになります。
使えるお金が複数あるとき、順番によって数年後の残高が変わります。
基本の順番
- 失業給付:非課税で、翌年の保険料算定にも含まれません。まず使います
- すぐ使える預金:値動きがなく、いつ引き出しても金額が変わりません
- 退職金として受け取った資金のうち、まだ運用していない分
- 運用資産:最後に回します
📌 なぜ運用資産を最後に回すのか
退職後1年目は、いつ資金が必要になるかを選べません。そのタイミングが相場の下がっている時期に当たると、下がった価格で売ることになります。値動きのないお金を先に使えば、売る時期を選べる状態を保てます。
1年目に運用を始めない選択
退職金が入ると、金融機関から運用の提案を受ける機会が増えます。1年目は収入の形が固まっていない時期です。生活費として使う分が確定するまで、運用に回す額を決めきらないという選択もあります。
生活費の2年分を値動きのないところに置いたうえで、残りをどうするかを考える。この順序だと、1年目に相場を気にする必要がなくなります。
失業給付を受けながら働く場合
失業給付を受けている期間にアルバイトなどで収入を得ると、日数や金額によって給付が減額されたり、支給が繰り越されたりする扱いがあります。働く前にハローワークへ申告する必要がありますので、事前に確認しておくことをお勧めします。
65歳の直前に退職する場合に変わること
65歳以降に退職すると、基本手当ではなく高年齢求職者給付金という一時金の扱いになります。受け取れる日数が大きく変わるため、退職日の設定が家計に影響します。
60代で退職を考える場合、退職日の設定が給付額に効いてきます。
| 退職時の年齢 | 給付の種類 | 日数の目安(被保険者期間20年以上) |
|---|---|---|
| 64歳まで | 基本手当 | 自己都合150日/会社都合240日 |
| 65歳以降 | 高年齢求職者給付金(一時金) | 被保険者期間1年以上で50日分 |
📌 日数の差は大きくなります
64歳で退職して基本手当150日を受ける場合と、65歳以降に退職して50日分の一時金を受ける場合では、受け取る日数が3倍前後変わります。退職の時期をご自身で選べる場合、この点を計算に入れる価値があります。
年金との関係
60歳〜64歳のあいだに特別支給の老齢厚生年金を受け取れる方が失業給付を受ける場合、年金が支給停止になる調整があります。どちらが多いかは金額によって変わりますので、年金事務所で確認されることをお勧めします。
65歳以降は、高年齢求職者給付金と老齢年金をあわせて受け取れます。この点だけを見ると65歳以降が有利ですが、日数の差のほうが大きくなることが多くあります。
⚠️ 退職日の設定は、失業給付だけでなく退職金の額、社会保険の加入期間、住民税の納め方にも影響します。ご自身の条件での比較は、ハローワークと年金事務所の両方でご確認ください。
退職の日から3か月のやることリスト
退職直後は健康保険と年金の手続きに期限があり、並行して失業給付の申請も進めます。時期ごとにやることを分けておくと、期限切れを避けられます。
退職前(できれば3か月前から)
- 任意継続と国民健康保険の保険料を両方試算して比べる
- 離職理由の記載について勤務先に確認する
- 退職金の受け取り方(一時金・年金・併用)を決める。選択の期限を確認する
- 企業型DCがある場合、iDeCoへの移換か受け取りかを確認する(放置すると自動移換となり手数料がかかることがあります)
- 12か月分の収支表を作る
退職後14日以内
- 国民健康保険を選ぶ場合の届出(市区町村)
- 国民年金の第1号被保険者への切替(60歳未満の場合・市区町村)
退職後20日以内
- 任意継続を選ぶ場合の申出(健康保険組合など)——この期限を過ぎると選べません
離職票が届いたら(通常10日〜2週間後)
- ハローワークで求職の申込みと受給資格の決定
- 特定受給資格者に該当する場合、国民健康保険料の軽減措置を自治体に申請
退職の翌月以降
- 住民税の納付書が届きます(退職時に一括徴収されている場合を除く)
- 企業型DCの移換手続きの期限(退職後6か月)を確認
翌年2月〜3月
- 確定申告:年末調整がないため、生命保険料控除や医療費控除などを申告で反映します。源泉徴収されすぎている分が戻ることがあります
35年の実務のなかで、退職後1年目にご相談にいらっしゃる方の困りごとは、金額よりも期限に気づかなかったことに集まっています。任意継続の20日、企業型DCの6か月。この2つは、過ぎてしまうと戻せません。
退職の日が決まったら、カレンダーにこの期限を書き込んでおく。それだけで1年目の負担がずいぶん変わります。
退職後1年目の生活費についてよくあるご質問
退職後1年目のお金について、退職を控えた方からいただくご質問をまとめました。失業給付の時期、健康保険の選択、住民税と社会保険料の負担を扱っています。
失業給付は退職してすぐもらえますか。
希望退職に応募した場合、自己都合になりますか。
任意継続と国民健康保険、どちらが安いですか。
住民税はいつ請求されますか。
退職金を生活費に使ってもよいですか。
失業給付を受けながらアルバイトはできますか。
60歳を過ぎてから退職する場合、給付は変わりますか。
企業型DCはそのままにしておけますか。
確定申告は必要ですか。
次の仕事が決まらないうちに運用を始めるのは避けたほうがよいですか。
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