退職金・企業年金・iDeCoを受け取る順番と空ける年数
退職金と企業年金、それにiDeCo。受け取れるものが複数あるとき、どれをいつ受け取るかで税額が変わります。ご相談のなかでも、退職所得控除という仕組みそのものを初めて知ったという方が少なくありません。しかも控除は、受け取るたびに満額を使えるわけではないのです。この記事では、受け取る順番と空けた年数によって控除の使える額がどう変わるのかを、国税庁が示している規定にそって整理します。
📌 この記事の要点
- 退職所得控除は受け取るたびに満額を使えるわけではありません。前に受け取ったものとの勤続期間の重なりに応じて、控除額が調整されます。
- 調整の対象になるかどうかは空けた年数で決まります。国税庁は「前年以前4年内」「前年以前9年内」「前年以前19年内」という3つの期間を示しています。
- 先に退職金、あとにiDeCoや企業型DCの一時金という順番では、前年以前19年内が対象です。これがいわゆる19年ルールです。
- 先にiDeCoや企業型DCの一時金、あとに退職金という順番では、令和8年1月1日以後に支払われる退職手当等について前年以前9年内が対象になりました。改正前の4年内から延びています。
- 一時金ではなく年金の形で受け取るものは、退職所得ではなく公的年金等の雑所得として扱われるため、この順番の話には乗りません。
なぜ受け取る順番で税額が変わるのか
退職所得控除は勤続年数に応じて計算されますが、複数の一時金を受け取る場合、前に受け取ったものと勤続期間が重なる部分については控除が調整されます。このため受け取る順番と間隔が税額に影響します。
退職金を一時金で受け取ると、退職所得控除という大きな控除が使えます。ここまではよく知られています。
見落とされやすいのは、その次です。企業年金の一時金やiDeCoの一時金を別の年に受け取る場合、控除を2回とも満額で使えるとは限りません。
理由は「同じ期間を二重に数えない」ため
退職所得控除は、勤続年数の長さに応じて増えていきます。会社に勤めながら同時にiDeCoにも加入していた場合、その期間は退職金の勤続年数にも、iDeCoの加入年数にも含まれます。
両方で満額の控除を認めると、同じ期間が二重に数えられることになります。そこで、重なっている期間については控除を調整する規定が置かれています。
📌 この記事で扱うこと/扱わないこと
扱うのは、一時金で受け取るものを複数持っている場合の、受け取る順番と間隔です。
一時金で受け取るか年金の形で受け取るかという選択そのものは、別のコラムで扱っています(記事の最後に関連リンクがあります)。
退職所得控除の計算|まず基本を押さえる
退職所得控除は勤続年数が20年以下と20年超で計算式が分かれます。1年未満の端数は1年に切り上げます。控除を差し引いたあとの金額は、原則として2分の1が課税対象になります。
調整の話に入る前に、もとになる計算を確認します。国税庁が示している式は次のとおりです。
退職所得控除額
| 勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合には、80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A - 20年) |
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、その端数を1年に切り上げます。
課税される金額
📌 (収入金額(源泉徴収される前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
控除を超えた部分も、課税対象になるのは原則として半分です。他の所得と合算されない分離課税のため、その年の給与や年金の額に影響されません。
2分の1が適用されない場合
- 特定役員退職手当等:役員等としての勤続年数が5年以下の場合の退職手当等については、2分の1の計算の適用がありません
- 短期退職手当等:役員等以外で勤続年数が5年以下の場合、300万円を超える部分については2分の1の計算の適用がありません
⚠️ 本記事では、考え方が伝わるように制度の規定のみを記載しています。ご自身の勤続年数や金額をあてはめた税額の計算は、勤務先の担当部署または税理士にご確認ください。
一時金で受け取るものは同じ土俵に乗る
確定給付企業年金や確定拠出年金から一時金として受け取るものは、税の計算上、退職手当等として扱われます。そのため会社の退職金と同じ枠組みのなかで控除の調整を受けます。
「退職金」と「企業年金」と「iDeCo」は、制度としては別ものです。ただし一時金で受け取る場合、税の計算上はまとめて「退職手当等」として扱われます。
退職手当等として扱われる主なもの
- 会社から支給される退職一時金
- 確定給付企業年金から一時金で受け取るもの
- 確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の老齢給付金を一時金で受け取るもの
同じ枠組みに乗るからこそ、重なりの調整が働きます。「会社の退職金とiDeCoは別ものだから、控除も別々に満額使える」とは考えないほうが安全です。
📌 年金の形で受け取るものは、この話に乗りません
企業年金やiDeCoを年金の形で分割して受け取る場合、退職所得ではなく公的年金等の雑所得として扱われます。退職所得控除ではなく公的年金等控除の対象になり、順番や空けた年数の調整は関係しません。
ただし公的年金等控除は公的年金と合算した収入に対して使うため、別の重なりが生じます。こちらは関連コラムで扱っています。
重複期間の調整|控除額はどう減るのか
調整が適用される場合、本年分の勤続年数で計算した退職所得控除額から、前の退職手当等と重複する期間の年数で計算した控除額相当額を差し引いた残額が、その年の控除額になります。
調整の中身は、国税庁の説明にそのまま書かれています。
📌 国税庁の記載
「本年分の退職手当等の勤続年数に基づき上記表により算出した退職所得控除額から、重複期間の年数(重複期間に1年未満の端数がある場合には切り捨てます。)に基づき上記表により算出した退職所得控除額相当額を控除した残額が退職所得控除額となります。」
式の形にすると
その年の退職所得控除額 =
本年分の勤続年数で計算した控除額
- 重複期間の年数で計算した控除額相当額
2つの端数処理は向きが逆です
| 何の年数か | 1年未満の端数 |
|---|---|
| 本年分の勤続年数 | 1年に切り上げ |
| 重複期間の年数 | 切り捨て |
控除を増やす側は切り上げ、控除を減らす側は切り捨てになっています。混同しやすいところです。
調整されるのは「重なった期間の分」だけ
重要なのは、控除がゼロになるわけではないという点です。差し引かれるのは重なっている期間に対応する分であり、重なっていない期間の分は残ります。
会社に勤めていた期間とiDeCoに加入していた期間が完全には一致しない場合、その差の部分は控除として使えます。
3つの期間|4年・9年・19年
調整の対象になるかどうかは空けた年数で決まります。国税庁は、受け取る順番に応じて前年以前4年内、前年以前9年内、前年以前19年内という3つの期間を示しています。
ここが、この記事のいちばんの要です。調整されるかどうかは、前に受け取ってから何年空いているかで決まります。そして、その年数は受け取る順番によって異なります。
国税庁が示している3つのケース
| 今年受け取るもの | 前に受け取っていたもの | さかのぼる期間 |
|---|---|---|
| 退職手当等 | 退職手当等 | 前年以前4年内 |
| 退職手当等 | 確定拠出年金の老齢給付金の一時金 | 前年以前9年内(※適用時期に条件あり) |
| 確定拠出年金の老齢給付金の一時金 | 退職手当等 | 前年以前19年内 |
いわゆる19年ルール
3行目が、面談でも「初めて知った」とよく言われるものです。先に会社の退職金を受け取り、あとから確定拠出年金の一時金を受け取る場合、さかのぼる期間は19年です。
60歳で退職金を受け取り、その後にiDeCoの一時金を受け取ろうとすると、19年空けるのは現実的ではありません。この順番では、重なりの調整を前提に考えることになります。
いわゆる10年ルール(前年以前9年内)
⚠️ ここは近年変わった部分です。確定拠出年金の老齢給付金を一時金で先に受け取り、そのあとに退職手当等を受け取る場合、さかのぼる期間が前年以前4年内から前年以前9年内に延びました。
国税庁の記載では、令和8年1月1日以後に支払を受けた退職手当等については前年以前9年内に支払を受けたものが、令和8年1月1日前に支払を受けた退職手当等については前年以前4年内に支払を受けたものが、それぞれ対象とされています。令和8年(2026年)はすでにこの期間に入っています。
改正前は「先にiDeCoを受け取り、5年空けてから退職金」という組み立てが紹介されることがありました。いま同じ前提で考えると、想定と違う結果になりえます。
順番で何が変わるか|整理のしかた
先に退職金を受け取るか、先に確定拠出年金の一時金を受け取るかで、さかのぼる期間が19年と9年に分かれます。退職や受給開始の時期を選べる場合は、この差が判断材料になります。
2つの順番を並べると、違いがはっきりします。
| 先に退職金 → あとにDC一時金 | 先にDC一時金 → あとに退職金 | |
|---|---|---|
| さかのぼる期間 | 19年 | 9年(令和8年1月1日以後に支払を受ける退職手当等について) |
| 調整を避けられるか | 19年空けることになり、現実には難しい場面が多くなります | 9年空けられるかどうかが分かれ目になります |
| 考えどころ | 調整されることを前提に置く | 受給開始の年齢と退職の時期を並べて見る |
順番を選べる場合とそうでない場合
退職の時期が会社の制度で決まっている場合、順番は選べません。一方で、確定拠出年金の受給開始時期には幅があります。受け取れるようになったあと、いつ請求するかをご自身で決められる部分です。
ただし、受け取りを遅らせるあいだも口座の管理手数料はかかり続けます。また、受給を開始できる年齢の上限も定められています。税の調整を避けることだけを目的に時期を決めると、別の負担が増えることがあります。
順番のほかに見ておきたいこと
- 一時金で受け取るか、年金で受け取るか:年金の形を選べば、そもそもこの調整の対象から外れます。ただし公的年金等控除の側で別の重なりが生じます
- 企業型DCを放置していないか:転職や退職のあと手続きをしないと自動移換となり、手数料がかかったうえに運用の指示もできません
- 社会保険料への影響:一時金は国民健康保険料や介護保険料の算定の基礎に含まれませんが、年金の形で受け取る分は含まれます
⚠️ 順番と時期の組み合わせによる有利不利は、勤続年数、加入年数、それぞれの金額、他の所得によって変わります。ご自身のケースでの判断と計算は、税理士または運営管理機関にご確認ください。
50代のうちに確認する5つのこと
勤続年数、確定拠出年金の加入年数、両者の重なり、受け取れる時期、受け取り方の選択肢という5つを書き出せば、順番を検討する材料がそろいます。
紙1枚で足ります。次の5つを書き出してください。
- 会社の勤続年数(入社年月と、退職予定の年月)
- 確定拠出年金の加入年数(企業型DC・iDeCoそれぞれについて、開始した年月)
- ①と②が重なっている期間(ここが調整の対象になる部分です)
- それぞれ、いつから受け取れるか(退職金の支給予定日と、確定拠出年金の受給開始可能な時期)
- 年金の形で受け取る選択肢があるか(勤務先の制度と、運営管理機関の取り扱い)
この5つでわかること
- ③が大きいほど、調整の影響も大きくなります
- ④から、19年または9年を空けられる可能性があるかが見えます
- ⑤から、そもそも調整の枠組みから外す選択があるかがわかります
📌 確認先
勤続年数と退職金の支給予定:勤務先の人事・総務
確定拠出年金の加入年数と受給開始時期:運営管理機関(記録関連運営管理機関の加入者サイトで確認できることが多くあります)
税額の計算と、ご自身のケースでの適用:税理士
35年の実務のなかで感じているのは、この順番の話は知っているかどうかで結果が変わるのに、受け取る直前まで誰からも説明されないことが多いということです。退職金の説明会で触れられることはあまりなく、確定拠出年金の案内にも詳しくは書かれていません。
そして、受け取ってしまったあとでは順番を変えられません。退職の時期が見えてきた段階で、上の5つを書き出しておくことをお勧めしています。
📌 この記事で引用した規定の出典
国税庁タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」/No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」
制度は改正により変わる場合があります。最新の内容は国税庁のページでご確認ください。
受け取る順番についてよくあるご質問
退職金と企業年金、確定拠出年金の受け取る順番について、退職を控えた方からいただくご質問をまとめました。控除の調整、空ける年数、手続きの確認先を扱っています。
退職所得控除は、受け取るたびに満額使えないのですか。
19年ルールとは何ですか。
5年空ければよいと聞きましたが、違うのですか。
企業年金の一時金も対象になりますか。
年金の形で受け取れば、この調整は関係ありませんか。
重複期間はどう数えますか。
受け取る順番は自分で選べますか。
確定拠出年金の加入年数はどこで確認できますか。
転職して企業型DCを放置しています。どうなりますか。
誰に相談すればよいですか。
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