相続した実家をどうするか|決める前に確かめること
親が住んでいた家が、自分の名義になった。売るつもりもないし、住むつもりもない。そのままにしてある——ご相談のなかで、いちばん多くうかがう状態です。決めきれないのは、判断が遅いからではありません。確かめるべきことが片づいていないと、決めようがないためです。この記事では、実家をどうするかを決める前に確かめておくことを整理しました。すでにどなたかのご紹介でこちらにたどり着かれた方は、最後のセクションもあわせてご覧ください。
📌 この記事の要点
- 選べる道は住む・貸す・売る・そのままにするの4つです。「そのままにする」も1つの選択で、費用と手間が発生します。
- 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が必要です。正当な理由なく申請しない場合、過料の対象になりえます。
- 売ることを選ぶ場合、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限のある特例があります。
- 名義・境界・抵当権・建築年・きょうだいの意向。この5つが確かめられていないと、どの道も選べません。
- きょうだいで意見が分かれたときは、まずそれぞれが何を心配しているかを並べます。金額の話にする前の段階で止まっていることが多くあります。
実家をどうするかは、4つの道に分かれます
相続した家の選択肢は、自分が住む、人に貸す、売る、そのままにするの4つです。それぞれ発生する費用と手間が異なり、そのままにする選択にも維持費がかかります。
選択肢を先に並べておくと、迷っている場所がはっきりします。
| 道 | 入るお金 | 出るお金 | 手間 |
|---|---|---|---|
| 自分が住む | いまの住居費がなくなります | 固定資産税、修繕、引越し、リフォーム | 引越しと、いまの住まいの処理 |
| 人に貸す | 家賃 | 固定資産税、修繕、管理費、所得税・住民税 | 入居者の募集と管理(管理会社に委託も可) |
| 売る | 売却代金 | 仲介手数料、譲渡所得の税、片づけ費用 | 片づけ、境界の確認、売却の手続き |
| そのままにする | ありません | 固定資産税、火災保険、庭木や通気の管理 | 定期的な見回りが要ります |
「そのままにする」も選択です
決めていないつもりでも、時間が経てば「そのままにする」を選んでいることになります。この道が向く場合もあります。お子さんが数年後に使う予定がある、地域の再開発の見通しを待っている、ご自身の生活が落ち着くまで判断を保留したい。理由があって選ぶなら、それは判断です。
むずかしいのは、理由がないまま年数が過ぎる場合です。維持費が積み上がり、建物の状態が悪くなり、後述する期限のある選択肢が使えなくなっていきます。
決めないままでいると起きること
空き家のまま年数が経つと、固定資産税と維持費が続くだけでなく、建物の劣化により売れる価格が下がります。管理が行き届かない状態が続くと、固定資産税の軽減が外れる場合もあります。
毎年かかり続けるもの
- 固定資産税・都市計画税:住んでいなくても課税されます
- 火災保険料:空き家は契約できる商品が限られ、保険料が上がることがあります
- 水道・電気の基本料金:通気や清掃のために止めない方が多くいらっしゃいます
- 庭木の手入れ・見回り:ご自身で行くか、業者に頼むか
建物の価値が下がっていきます
人が住まない家は、傷みが早く進みます。通気がなく、水回りが使われないためです。数年放置すると、買主が住むための修繕費が売却価格から差し引かれる形になります。
固定資産税の軽減が外れる場合があります
⚠️ 住宅が建っている土地には固定資産税の軽減があります。ただし、管理が行き届かず周囲に影響を及ぼしうる状態になると、自治体から特定空家等や管理不全空家等として指導・勧告を受ける仕組みがあります。勧告を受けると軽減が外れ、土地の固定資産税が大きく上がることになります。
相続登記には期限があります
2024年4月から、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが求められています。正当な理由なく申請しない場合、過料の対象になりえます。名義が亡くなった方のままだと、売ることも貸すこともできません。
登記がお済みでない方は、まずここから手をつけることになります。手続きの流れは、次の窓口で確認できます。
📌 相続手続きの流れを確認する
何がどの順番で必要になるかを、期限つきで一覧にしています。
▶ 相続手続きガイド(FPis)
決める前に確かめる5つのこと
名義、境界、抵当権、建築年、きょうだいの意向という5つが確かめられていないと、住む・貸す・売るのどの道も具体的に検討できません。いずれも書類か会話で確認できます。
ここが片づいていないために、決めようがない状態になっている方が多くいらっしゃいます。
1. 名義が誰になっているか
登記事項証明書(法務局で取得できます)で確認します。亡くなった方のままか、ご自身の名義になったか、きょうだいとの共有になったか。共有になっている場合、売却には共有者全員の同意が必要です。
2. 境界がはっきりしているか
隣地との境界が確定していないと、売却の際に測量と境界確認が必要になります。測量には数十万円かかることがあり、隣地の方の立会いも要ります。古い住宅地では、境界標が見つからないことも珍しくありません。売ることを考えるなら、早めに確認しておきたい部分です。
3. 抵当権が残っていないか
親御さんの住宅ローンが完済されていても、抵当権の抹消登記がされていないことがあります。登記事項証明書で確認できます。残っていると売却の手続きが進みません。
4. 建物がいつ建てられたか
建築確認済証や登記事項証明書で確認します。昭和56年5月31日以前に建てられたかが、後述する売却時の特例の条件になります。また耐震基準の観点で、住む場合・貸す場合の改修費の見込みも変わります。
5. きょうだいがどう考えているか
共有になっていない場合でも、きょうだいには思いがあります。「実家を売ってほしくない」「自分が使いたい」「早く現金にしてほしい」。売ったあとに揉めるより、決める前に聞いておくほうが楽です。
📌 1〜4は書類で確認できます
登記事項証明書は法務局の窓口やオンラインで取得でき、手数料は数百円から千円台です。1通取るだけで、名義・境界の記載・抵当権が一度に確認できます。ここから始めるのがもっとも早い形です。
売る場合に期限のある特例があります
相続した居住用の家屋を売る場合、一定の条件のもとで譲渡所得から控除を受けられる特例があります。相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限が設けられています。
売ることを考えるなら、期限のある選択肢があることを知っておく意味があります。
被相続人の居住用財産(空き家)の特例
亡くなった方が住んでいた家屋とその敷地を売った場合、譲渡所得から一定額を控除できる特例があります。主な条件は次のようなものです。
- 期限:相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物(マンションなど)でないこと
- 相続開始の直前に、亡くなった方がひとりで住んでいたこと
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続のときから譲渡のときまで、事業・貸付け・居住に使われていないこと
家屋を取り壊して土地だけを売る場合や、買主が譲渡後の一定期間内に耐震改修または取壊しを行う場合にも、条件を満たせば適用されることがあります。控除額は相続人の人数によって変わる扱いがあります。
相続税を納めた方には、もう1つ
相続税を納めた財産を売る場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。こちらは相続税の申告期限の翌日から3年以内の譲渡が条件です。
⚠️ どちらの特例も条件が細かく、併用できない組み合わせもあります。また制度改正により内容が変わる場合があります。ご自身のケースで使えるかどうかの判断と、税額の計算は、税理士にご確認ください。FPisでは、お金の全体像を整理したうえで、必要に応じて税理士をご紹介しています。
期限が意味すること
「そのままにする」を選んでいるあいだに、この期限が過ぎることがあります。3年は、片づけと境界の確認をして売却に出すと考えると、けっして長い期間ではありません。売る可能性が少しでもあるなら、期限だけは押さえておく価値があります。
住む・貸すを選ぶ場合に見ておく数字
自分が住む場合は改修費といまの住まいの処理、貸す場合は家賃から諸経費を引いた手残りが判断材料になります。どちらも建物の状態の確認が前提になります。
自分が住む場合
比べる数字は2つです。
- 改修にかかる費用:水回り、屋根、外壁、耐震。築40年を超える家では数百万円になることがあります
- いまの住居費がなくなる分:家賃または住宅ローンの返済額×住む年数
改修費を、住むことで浮く住居費で何年で回収できるか。この年数が、ご自身が住む予定の年数より短いかどうかが目安になります。
あわせて、通勤・通院・買い物の利便性も判断材料です。50代で移り住む場合、その後20年30年をそこで過ごす前提になります。いまの生活ではなく、10年後20年後の生活で見ることをお勧めしています。
人に貸す場合
家賃がそのまま手元に残るわけではありません。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 家賃収入 | 地域の相場 |
| 管理会社への委託料 | 家賃の5%前後 |
| 固定資産税・都市計画税 | 年額 |
| 火災保険料 | 年額 |
| 修繕費の積立 | 家賃の10%〜20%程度を見込む考え方があります |
| 空室期間 | 年間で1〜2か月分を見込む考え方があります |
| 所得税・住民税 | 不動産所得に対して |
これらを引いたあとの手残りが、実際の収入です。貸し出す前の初期改修費も加えて、何年で回収できるかを見ます。
⚠️ 貸すことを選ぶと、その後に売る場合の税の扱いが変わることがあります(空き家の特例は貸付けに使われていないことが条件です)。将来売る可能性がある場合、貸す前に税理士へご確認ください。
きょうだいで意見が分かれたとき
意見が分かれる背景には、金額以外の思いが混ざっていることが多くあります。それぞれが何を心配しているかを言葉にしてから、金額の話に進む順序が整理しやすくなります。
実家の話が進まない理由は、金額だけではないことがほとんどです。
よく出てくる食い違い
| 立場 | 言葉になりやすいこと | その下にあること |
|---|---|---|
| 実家の近くに住んでいた方 | 「売るのは反対」 | 親の世話をしてきた時間を認めてほしい |
| 遠方に住んでいる方 | 「早く現金にしたい」 | 管理に関われないことへの後ろめたさ |
| 名義を引き継いだ方 | 「自分が決めていいはず」 | 維持費と手間を1人で抱えている負担 |
それぞれに理由があります。「反対」という言葉だけを受け取ると、対立しているように見えますが、心配している中身が違うだけということが多くあります。
進めやすい順序
- 先に事実を共有する:登記事項証明書、固定資産税の額、建物の状態。数字と書類は、感情を挟まずに共有できます
- それぞれの希望を聞く:どうしたいかではなく、「何が心配か」を聞きます
- 維持費の負担を明らかにする:いま誰がいくら払っているか。ここが見えると話が変わることがあります
- 期限のある選択肢を共有する:決めない場合に何が使えなくなるかを、全員が知っている状態にします
- そのうえで金額の話に入る
📌 第三者を挟むという選択
ご家族だけで話すと、昔のことが混ざりやすくなります。事実の整理と数字の説明だけを外部に任せることで、話が進む場合があります。FPisでは、ご家族全員で同席いただく形のご相談にも対応しています。
⚠️ 遺産分割の内容そのものについて争いがある場合は、弁護士のご相談が要ります。登記の手続きは司法書士、税額の計算は税理士が担当します。FPisはお金の全体像の整理を担い、必要に応じてこれらの専門家をご紹介しています。
紹介でこの記事にたどり着いた方へ
ご紹介でこちらをご覧になった方に向けて、次に何をすればよいかを整理しました。書類1通の取得から始められ、専門家が必要な場面ではご紹介できます。
この記事は、検索で探して読むことを想定して書いたものではありません。すでに実家のことで困っていて、どなたかから名前を聞いてこちらを開かれた方に向けて書きました。
いまの状態にあわせて、次の一歩
| いまの状態 | 次にすること |
|---|---|
| 名義がまだ亡くなった方のまま | 相続登記の手続きから。期限があります |
| 名義は済んでいるが、どうするか決まらない | 登記事項証明書を1通取り、5つの確認から |
| 売りたいが、きょうだいの同意が得られない | 先に事実と維持費の共有から |
| 売ることは決めたが、税金が心配 | 期限のある特例が使えるかを税理士と確認 |
| そもそも何から手をつけるかわからない | 下の診断で、いまの位置を確認できます |
📌 3つの質問で、いまの位置を確認できます
何がどこまで済んでいて、次に何が必要か。3分ほどでご確認いただけます。
▶ 相続の準備診断(FPis)
▶ 相続手続きガイド(FPis)
ご相談いただくときにお持ちいただくもの
- 登記事項証明書(お持ちでなければ、取り方からご案内します)
- 固定資産税の納税通知書
- お手元にある図面や建築確認済証(見つからなくても問題ありません)
この3つがあれば、その日のうちに選択肢を並べられます。お持ちでなくても、何から取ればよいかをご案内するところから始められます。
35年の実務のなかで感じているのは、実家のことでご相談にいらっしゃる方の多くが、判断を迷っているのではなく、何を確かめればよいかがわからない状態にあるということです。確かめる順番が決まれば、決めるのはそれほどむずかしいことではありません。
ご紹介でこちらをご覧になった方も、そのままお問い合わせいただけます。ご紹介者のお名前をお伝えいただく必要はありません。
相続した実家についてよくあるご質問
相続した実家について、ご相談のなかでいただくご質問をまとめました。登記の期限、売却時の特例、きょうだいとの共有、維持費の扱いを扱っています。
相続登記はいつまでにしないといけませんか。
空き家のままにしておくと、固定資産税は上がりますか。
売却時の3,000万円の控除は誰でも使えますか。
きょうだいとの共有名義になっています。売れますか。
貸したあとでも売却の特例は使えますか。
境界の測量にはいくらかかりますか。
維持費を1人で払っています。きょうだいに求められますか。
親が住んでいた家に自分が住む場合、税金の優遇はありますか。
実家の片づけから手が回りません。何からしますか。
誰に相談するのがよいですか。
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FP事務所FPis/代表 石田健雄(CFP・1級FP技能士)。所属先を通じて生命保険・損害保険・金融商品仲介の募集人として登録しています。

